第94話
「先手はそっちからでいいよ。僕は試験官だからね」
余裕の表情を崩さずに、ディンがそういった。
それに対して俺は首を振る。
「いえ…こちらこそ、先手は譲りますよ。俺も試験を受けるからにはそれなりに楽しみたいので」
「…っ」
ディンのこめかみが僅かにひくついた。
俺の挑発に対して、僅かな怒気を感じた。
一見飄々としていて軽い感じの男に見えるが、案外真面目で煽り耐性がないのかもしれない。
「き、君は僕の試験を受ける受験生の立場だろう…?なんだいその偉そうな口調は」
「偉そうに聞こえましたか?なら謝りますけど…でも多分実力で言えば俺の方が上ですよ。なので先手を譲ると言っているんです」
「「「おぉおおお!!」」」
俺が自信たっぷりにそういうと、生徒たちからどよめきが上がる。
「あ、あいつマジかよ…!」
「すげぇ…帝国魔道士団の魔法使いに対して自分の方が強いだってよ…」
「自信過剰すぎないか…?」
「あいつ…あんな大口叩いて大丈夫か?」
「殺されるぞ…大丈夫なのかよ…相手は最高峰の魔法使いだぞ…?」
生徒たちは、俺が帝国最高の魔法使い集団の一員に対して大きく出たのが驚きだったようだ。
俺を心配するような声もちらほら聞こえてくる。
「…っ!!う、生まれてこの方…ここまで軽んじら
れたのは初めてだな…ぼ、僕が君に劣ると…?」
「はい。事実ですので」
実を言うと…
一緒に学院生活を過ごしてきた同級生のほとんどが、真剣に臨んだこの卒業試験でディンに軽くあしらわれて、俺も少し向っ腹が立っていた。
仮にも試験官なのだから、ディンはもう少し生徒に対して気を使うべきだった。
ディンがもう少し俺たち卒業生に対して優しかったのなら、俺もここまで挑発的にはならなかっただろうな。
「き、君は少し…外の世界を知らなすぎるみたいだ…い、今まで学院内で周りにどれだけ持て囃されたのか知らないけど…身の程を教えた方がよさそうだね…」
ディンの体中から殺気が漏れ出した。
「ちょ、ディンさん…!?これは試験ですよ!?忘れていませんか!?」
試験をみまもていた学院の教員が、慌ててディンを止めに入るが、しかしディンの怒りは収まらない。
体内でどんどん強力な魔力を熾し、周囲を威圧している。
「や、やばいぞ…!?」
「なんか嫌な予感が…」
「は、離れた方がいいんじゃないか!?」
身の危険を感じた生徒たちが俺とディンから距離を取り出す。
「み、みなさん…!!一旦離れてください!!危険です!!」
教員も、流石に危機を察して、生徒たちを会場の端に移動させた。
生徒たちは俺たちから距離をとり、十分に安全なところから戦いを観察し出す。
「お互い全力出せそうですね。さあ、早くきてくださいよディンさん」
俺は離れていく生徒を横目に、ディンにそう言った。
「…くっ…み、身の程を知るがいい!!魔法学生風情が!!」
ディンが俺に対して本気の魔法を放ってきた。
魔法使い同士の戦いというのは普通、最初から全力をぶつけ合うものではない。
戦いの序盤は、敵に実力を悟られないよう半分程度の力で戦い、逆に敵の実力を探るのだ。
どのような魔法を使うのか。
属性は何か。
魔道具または魔剣を隠し持ってはいないか、等々。
そのような戦いを左右する重要な情報を、自分の守りを固めながら探っていくのだ。
だが、ディンは最初からその定石を破壊してきた。
年下で学院生の俺如きに煽られたのがよほどプライドを傷つけたようだ。
直撃したら死んでもおかしくないような威力の魔法を放ってくる。
「っと」
「…!?」
そんな魔法を、俺はステップのみで避ける。
ディンの顔が驚愕に染まる。
「よ、避けた…だと!?ただの魔法学生程度が僕の魔法を…?」
「そんなに正直に正面から魔法を売っても俺には当たらないですよ。視線と、体の重心と、空気から伝わってくる魔法の気配で、大体どの方向にどんな魔法が飛んでくるか、想像できますから」
「…っ」
ディンが悔しげに歯を噛む。
怒りで頭が沸騰していたおかげで、ディンの初撃は非常に単調だった。
ゆえに魔法を使うまでもなく交わすことができた。
これはエレナとの戦いで学んだ技術だ。
エレナとの訓練の初期は、馬鹿正直にはなった魔法は全てエレナに魔法を使うまでもなく避けられた。
そのことから、俺はフェイントや騙しうちなどと言った技術を学んだのだ。
「生意気な…帝国魔道士団の僕に学生が講釈を垂れるだと…!?」
「帝国魔道士団だというのならその実力をぜひ見たいものですね」
「殺すっ!!」
ディンが立て続けに魔法を放つ。
俺はその魔法を、魔法を使うことなく回避する。
「はっ…甘いぞ…」
だが、今度はディンも一工夫してきたようだ。
一度俺に避けられ背後に飛来したと思った魔法が、真反対にターンしてこちらに向かってきた。
「おっとと」
俺は背後に魔法の盾を展開して、魔法を打ち消した。
「…っ…これも防ぐか」
「今のはちょっと驚きました」
まさか早い段階で手の内を明かしてくるとは。
今ディンがしたことは魔法のアレンジに近かった。
ディンは練度は別にして、俺と同様に魔法にアレンジを加えられるほどの実力を有しているらしい。
「…な、なるほど…大口を叩くだけの実力は確かにあるようだね…」
「ディンさんも結構強いですね」
褒められたので俺も褒め返す。
「…っ…いちいち鼻につくやつだなぁ!!君は…!!」
「あれ…?」
だが、ディンは余計に怒ってしまったようだ。
怒りに任せて魔法を次々放ってくる。
俺とディンの対人魔法戦は、徐々にヒートアップしていった。
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