第53話
「おう、遅かったな。お前らが最後の組だぞ」
転移トラップから無事に脱出した俺たちは、ダンジョンの入り口付近へと帰還した。
「すみません…ちょっとしたトラブルが」
そこではすでに自由探索を終えた生徒たちが集まっていて、俺たちが最後の組のようだった。
小言を言ってくるエドワードに俺は謝る。
「トラブル…?大丈夫か?怪我はないのか?」
「はい。大丈夫です」
「そうか…それならいいが…」
エドワードはチラリと後ろの二人に視線を向ける。
システィもヴィクトリアも、トラップ部屋を出てからどこか放心状態で、まだ現実に帰ってこれていないような状態だった。
トラップを踏んで死にかけたことがショックだったのだろうか。
ともかく今の二人には一刻も早い休養が必要だな。
「それじゃあ、全員いるみたいだし、地上に戻るぞ。ダンジョン研修はこれにて終了だ。お疲れ様」
一足先にねぎらいの言葉を口にしたエドワードが、ダンジョンの出口に向かって歩き出す。
俺たち生徒もそれに続いて歩き出す。
こうして初めてのダンジョン研修は、終わったのだった。
それから三ヶ月後。
「もうすぐで長期休暇か…」
ガヤガヤとうるさい食堂で、俺はシスティ、ヴィクトリアと昼食をとっていた。
俺が魔法学院に入学してから四ヶ月近くが経とうとしていた。
最近は、俺、システィ、ヴィクトリアの三人のメンバーで行動するのが常になりつつある。
「そうですわねぇ…アリウスは何か予定でもあるので?」
「俺か?俺はエラトール領に帰るぞ。家族が寂しがっているだろうからな」
学院の一学期も終わりに近づき、長期休暇が目の前に迫っていた。
休暇は約二週間。
俺はもちろんエラトール寮へと帰るつもりでいた。
「そっかぁ…アリウスくん実家に帰るんだ」
システィが少し残念そうなつぶやきを漏らす。
「システィはどうするんだ?」
「私は休暇の間は王都でバイトかなぁ…学費とか稼がないといけないし」
「そうか」
魔術学院に通うには高い学費を払わなくてはならない。
学院の生徒の大半が貴族家で、学費の捻出には困らないのだろうが、システィは平民のため、バイトなどをしないと追いつかないようだった。
「はぁ…私もみんなみたいに休暇は休みたいんだけど…」
「ご心配ありませんわよ、システィ」
がっくりと肩を落とすシスティにヴィクトリアが突然言い出した。
「ふぇ?」
「学費ならバイトなどしなくても、これで稼げばいいのですわ」
そう言って一枚の貼り紙のようなものを突き出してきた。
俺とシスティはそれを覗き込む。
「「魔導祭?」」
「そうですわ。今から一週間後、毎年長期休暇の前のこの時期に行われる一大イベントですわ」
ヴィクトリアがふふんと鼻を鳴らす。
「なんなんだそれは?」
聞いたことのない催し物に、俺は首を傾げる。
「魔導祭とは端的に言えば、全学年を通して魔法の実力を競い合うイベントですわ」
「へぇ…ひょっとして対人戦か?」
「その通りですわ」
ヴィクトリアが首肯する。
「なるほど…」
俺は少し興味が出てきた。
全学年を通してってことは、当然、上級生も出てくるわけだよな…?
これに出れば強い魔法使いと戦うことができるかもしれないってことか?
「優勝賞金は…これくらいですわ」
ヴィクトリアが張り紙に書かれた賞金を示す。
システィが大きく目を見開いた。
「こ、こんなに…!?」
「魔導祭には三人一組で出ることが可能ですわ。システィ、私たち三人で出場して優勝するのですわ。そうすれば、学費も簡単に稼げますわ」
確かに優勝賞金を仮に三で割ったとしても、システィの学費にはあまりある額だった。
「で、でも…上級生も出場するんだよね…?優勝は無理なんじゃ…」
「無理じゃありませんわよ。アリウスがいれば」
「あ…確かに…」
何かを思い出しているのか、システィが遠い目になる。
「アリウス。出ますわよ、三人で。いいですわよね?」
「まぁ…いいぞ」
断る理由がなかった。
魔術学院に来てから、正直魔法の授業に関しては簡単すぎて退屈していたところだ。
俺は魔法使いとしてもっと上を目指さなくてはならない。
魔導祭出場が、更なる高みを目指すためのきっかけになるのだったら喜んで出場しよう。
「決まりですわ!!では今日の放課後、早速三人で集まってルール確認と作戦会議ですわ!!」
ヴィクトリアが声高に宣言した。
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