第50話
「今日はダンジョン研修に行くぞ〜」
俺が帝国魔術学院に編入してから一ヶ月が経過した。
ここでの生活にも俺はすっかり慣れて、何人かの友人もできた。
帝国魔術学院での生活は、今の所それなりに楽しいと言えるだろう。
授業や実技の訓練は簡単すぎて退屈極まりないが、友人たちと会話したりするのは楽しい。
またずっと領地に引きこもっていた俺にとっては帝都の生活も新鮮で、学院に通うという決断は間違いではなかったと思っている。
だが、早くも両親やイリスやエレナが恋しくなってきたので長期休暇には絶対に帰郷するつもりだ。
そんな日々を送っていた最中…
「ダンジョン研修?なんだそれ」
担任教師がいきなりダンジョン研修だと言い出した。
「えっとね…冒険者さんの付き添いでみんなでダンジョンに見学に行くんだよ」
俺が首を傾げていると、隣の席のシスティが説明してくれる。
最初は距離がかなりあった俺たちだが、この一ヶ月で友人と呼べるくらいにまで関係を深めている。
「ダンジョン…もしかしてモンスターがいるあのダンジョンか?」
「そうだよ。他にもダンジョンがあるの?」
「マジか」
知っている。
ダンジョン。
以前文献で読んだことがある。
何層にも渡って連なる地下迷宮で、モンスターの坩堝。
確か下へ行けば行くほど強力なモンスターが潜んでいる場所だったか。
どのようにして作られたのか、どういう仕組みになっているのか、いまだに解明されていないらしい。
「なんで俺たちがダンジョンに…?」
「魔法の戦闘をより深く学ぶために組まれたカリキュラムだよ」
「ふぅん」
システィは事細かにダンジョン研修について教えてくれる。
要は早いうちから魔術学院の生徒たちに実戦の感覚を身につけさせるための授業のようだった。
冒険者と呼ばれるダンジョン攻略の専門家たちの付き添いのもと、ダンジョンに潜りモンスターと戦う。
ダンジョンの低層には弱いモンスターしか出現せず、またトラップなども存在しない。
人間の子供でも殺せるようなモンスターばかりなので命を落とす危険もないということだった。
「ダンジョンか…」
俺は少しワクワクしていた。
帝都に来てからモンスターとは全く戦っていない
久しぶりに全力で魔法をぶっ放せる機会が来たのだろうか。
低層ではなく許可とをって深くまで潜ってみたい。
ダメだろうか。
…流石にそれはダメか。
「それじゃあ、お昼までに学年で三人一組のペアを組んでおけよ〜」
担任教師が最後にそれだけ言って授業を締めくくる。
ダンジョン研修はお昼からで、それまでに学年の生徒内で三人一組のペアを作る必要があるようだった。
「三人一組だって」
システィがこっちをみる。
「ああ。あと一人は…あいつしかいないよな」
俺はシスティを目を合わせて頷く。
その後、俺たちは三人目を誘いに別クラスを訪れるのだった。
「よし、ここで止まれ。周りをみろ。ここがダンジョン一階層になる」
魔術学院の生徒たちの前でそんな説明をするのは、大剣を背中に背負った大男だ。
生徒たちの噂話を盗み聞きしたところ、あの男はエドワードと言ってある有名冒険者パーティーのリーダーらしい。
界隈では英雄視されているような存在を牽引役として引っ張って来れるのはさすが帝国魔術学院と言ったところだろうか。
何人かの生徒たちは、キラキラとした憧憬の眼差しをエドワードに向けてその話に聞き入っている。
「この広い一階層は実はダンジョンの中では最も狭い階層となる。ダンジョンは下に行けば行くほど広くなる作りになっている。出てくるモンスターも強力だ。またダンジョンの壁は破壊できない。傷はつけられるが、時間が経てば自動的に修復する。仕組みについては解明されていない」
エドワードがそんな解説をする。
生徒たちは興味深げに聞き入っている。
「はぁ…退屈ですわ。早く魔法をぶっ放したいですのに…」
そんな中、隣からは疲れたようなため息が聞こえてきた。
ヴィクトリアだ。
俺は現在、俺、システィ、そしてヴィクトリアという三人ペアでダンジョン研修に挑んでいるのだ。
「大丈夫ですよ、システィさん。説明が終われば自由探索の時間になります。もうすぐです」
今にもこの場を抜け出して勝手な行動を始めそうなヴィクトリアを、システィが宥める。
俺を仲介者として、ヴィクトリアとシスティもこの一ヶ月ですっかり友人となってしまった。
「しかも行き来できるのが低層だけなんて…つまらないですわ…低層には子供でも倒せるような雑魚しかいませんのよ?」
ヴィクトリアが小さな声で愚痴っている。
どうやら彼女はダンジョンでモンスターに向かって思う存分魔法をぶっ放したいようだった。
だが、今日俺たちに立ち入りが許されたのは一階層から三階層までのいわゆる低層と言われる部分のみでそこから先は危険だからと足を踏み入れることを禁止されてしまっている。
もし禁止事項を破れば何らかの罰則を課すともあらかじめ言い付けられている。
ゆえにヴィクトリアはダンジョン研修が始まった当初から不満たらたらだった。
「まぁ仕方ないだろ。学院だって研修で生徒の中から死者を出すわけにはいかないんだ」
俺もシスティに加勢してヴィクトリアを宥める。
だが、内心は俺もヴィクトリアと同じで低層のみではなくもっとダンジョンの深い領域まで入ってみたいと思っていた。
「よし、ダンジョンに関する説明はこのぐらいだな。じゃあ、各自自由にダンジョンを探索していいぞ。モンスターがいたら積極的に倒せ」
そうこうしているうちにエドワードの解説が終わったようだった。
いよいよダンジョンの自由探索時間に移るようだった。
「ただし注意が二つある。一つは、絶対に3階層より下に立ち入らないこと。二つ目は、危なくなったらあらかじめ配っている転移結晶をすぐに使うことだ」
「…」
エドワードの注意事項に耳を傾けながら、俺は手元の青色の石に目を落とす。
これは転移結晶と呼ばれる、ダンジョンの中でのみ使える転移の石だ。
ダンジョンの至る場所で採掘可能なこの石は、どういうわけか少し魔力をこめるだけで持ち主とその周りの人間をダンジョンの入り口に一瞬で転移させてしまう。
なお、ダンジョンの外では力を完全に失うらしく、その仕組みはダンジョン同様今だに解明されていないらしい。
俺たち魔術学院の生徒には今日、危なくなったら即座に使うようにとこの転移結晶が人数分配布されていた。
「では自由探索を開始しろ!!言ってこい坊主ども!!!」
「よっしゃぁあああああ!!!」
「いくぞぉおおおおおお!!!」
エドワードの合図で、生徒たちが一斉にあちこちに散らばる。
皆、モンスターを倒した分だけ評価が上がるためかなり乗り気だ。
「俺たちも行くか」
「そうね」
「うん、行こう!!」
先に駆け出していった生徒たちに少し遅れて俺、システィ、ヴィクトリアの三人もダンジョンの探索へと乗り出していった。
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