セルコー討伐戦④


 ーセルコー雪原 魔王城側ー


『桜嵐(サクラアラシ)ッ!』



「『拘束崩壊(バーサーク・レストレイント)』」



 僕の目の前で、漆黒と炎が交錯する。


 なんだ、あいつは......


 上位個体に匹敵する、いや、それ以上の魔族だ。


 あんなもの、‘‘前回‘‘見たことがない。


「ぐっ!」


 中佐が黒の瘴気を喰らい、負傷する。


 何だ。何が起こっている。


 そして、一つ、思い当たる記憶に辿り着く。


 ーローゼマリー中佐、セルコー討伐戦にて、新型の魔族と相打ちになり死亡。



 そうか、道理で見たことがないわけだ。



 歩行型と斬り合って時間を浪費しながら、その戦いをただ凝視していた。



 ーここで、中佐が死ねば、人類にとって大きな損失になる。


 それは、使命を果たす上で有利になる。




「なかなかやるね。でも、アリシデェタ様の命により、貴方たちを殺す」


 そして、敵が中佐へと近づいた。


「お前なんかに、殺させはしないッ!」



 そして、敵が中佐へと攻撃を仕掛けた。


 その周囲には、僕と、数人の兵がいる。



「中佐を、助けないと......!」


「やめろ、邪魔になるだけだ!」


「くそっ、何も、できねぇのかよ!」


 周囲の兵は、その状況を、ただ眺めるしかなかった。



 ー何で、誰も助けてくれないんだ?


 浮かび上がったのは、処刑されたときに見た情景。


 ー僕は、人類のために、たった一人で貢献してきたじゃないか。




「じゃあね、これで、終わり」


 黒い少女は、素早く動いて中佐に奇襲を仕掛けた。


(ここで死ぬのかな。それは、少し、寂しいな)





 ーローゼマリー中佐、前回‘‘死亡‘‘


 僕が処刑されるときには、既に死んでいた人間だ。


 いや、それがどうした。


 正義を阻む者は悪で、この腐った世界から魂を救済しなければならない。

 神より賜った僕の使命は、魔族。そして人類の殲滅だ。



 ーだからさ、そんな寂しそうな顔するなよ。


 ーじゃ、頑張れよ。応援してるぜ。





「な、何っ!?」


 黒い少女は、奇襲を跳ね返され、動揺した。



「私の攻撃が、弾かれた!?」



「お前......ルード、か?」


 ローゼマリー中佐は、自分を助けた少年に振り返った。



 何だ?僕は、何をしているんだ?

 こんな行動は、正しくない。許されない。



「ありがとう、本当に、助けられた。あなたに、精一杯の感謝を」



 僕が、神の教えに反したのか?

 ただ一つ、信じていたものを、自らの手で裏切った。

 絶望し、狼狽し、悲嘆に暮れる。



(これは、光? 闇魔法を弾いた。少し当たった個所の皮膚がただれている。まさか、魔族と闇魔法に効果を発揮する魔法かな。アリシデェタ様に報告しないと)



 どうして、こんなことをしたんだ。

 聖典に示された正義じゃない。

 自分の、つまらない、身勝手な意思で、神に背いた。

 愚かで、醜悪極まりない。


「二対一じゃ分が悪いか。ここは退散しよっと」


 黒い少女は、魔王城へと帰っていく。



 気が動転する。

 胸の中が潰れそうだ。

 視界が歪んで前さえ見れない。

 どうしようもないほど顔を曇らせて、ただ俯く。



「四天王、シュニィドラゴン、討伐完了!」


 向こうで、人類が四天王を討伐した。


「や、やったぞぉぉぉぉ!」


 人類は、強敵を打倒した喜びに酔いしれた。

 手を挙げ、叫び、飛び跳ね、戦友と顔を見合わせる。




 剣を持つ手が、震えて止まらない。

 足が竦んで、立っているのさえもう耐えられない。

 鼓動の音さえ聞こえず、目は真っ黒になったように何も見えない。

 このまま、一歩だって動けなかった。



「総員、帰還する!」


 戦いを終えた人類は、雪原を後にした。




 ごめんなさい、神様。

 僕は、間違いを犯しました。





 Disobey God..................

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