セルコー討伐戦②
【ローゼマリー中佐視点】
「中佐、そっちの敵はお願いします」
「いや、こっちのほうがやばいんですけど!」
「すみません、ここも危ないです」
「わかったよ、まとめて倒してやる」
炎魔法で一帯の魔族を一通り倒す。
「ありがとうございます! 一生恩に着るっす」
「ああ、頼んだぜ」
小粋な会話をしながら魔族を蹴散らしていた、その時、何か異質なものを捉えた。
奥の方に見える、全身を黒を基調とした衣服で包んだ少女。
ここにいるのがただの人間でないことはわかる。
いや、直観した。あれは敵、魔族だ。
人とは気配が違う。
すると、そいつは、手を前に出し、
私の横にいた兵を黒い弾で貫いた。
「中佐! 避けてくださいっ」
兵の一人が、私の前に立って庇おうとする。
「いや、いい。大丈夫だ」
それを押しのけ、前に出る。
これ以上、私の近くにいる人間を殺させるわけにはいかない。
さすがに、目の前のやつくらい助けないとな。
黒い少女は次の標的を定めて黒い弾を放つ。
それを、炎を出して止めた。
「ん? 少し、強いのがいるね」
「私のことか? そりゃどうも」
何気なく返事したが、こいつ魔族なのに話したな。
只者じゃないかもしれない。
今使った黒い弾はおそらく闇魔法だろう。
未発見の上位個体か。
「失礼、君は誰だい」
「初めまして。私、アリシデェタ様の補佐、メルシゲェテと申します」
何だ。やけに礼儀正しいじゃないか。それに、どっちも人間の名前じゃないな。
「ああ、こっちは名乗らないぜ。勿体ないんでな」
「へぇ。そう」
そう言って、口角を吊り上げて微笑んだ。
こいつ、雰囲気が変わった......?
さっきと同じく、手を前に出し、黒弾を打とうとする。
だが、明らかにさっきよりも強いエネルギーだ。
それなら、こっちも威力を上げないとな。
黒弾は、強い勢いで、確実にこちらを仕留めようと放たれた。
押し返してやるッ......
イメージしろ。燃え盛るようなイメージを......
「『火炎、縫火花(ヌイヒバナ)』ッ!」
熱く激しい火花は、黒弾を弾いて、奴のところで爆発した。
「きゃっ、あっつい!」
どうやら攻撃は十分通用するらしい。
「へえ、そんな風にするんだ。えぇーと」
何か言っているな。
なら、とっとと倒してやるよ。
「『火鴉(ヒガラス) 』」
炎の鳥は、敵を焼き尽くすべく突き進んでいく。
すると、奴は人差し指を前に出して、呟いた。
「『封印開放(アビス・バレット)』」
黒弾は、形を変えて、唸るように火鳥を相殺した。
こいつ、まさかさっきので魔法のイメージを身に付けたのか......?
「こうするのか。ふーん」
まだ使いこなせてはいないらしい。
なら、一気に畳みかけるッ!
「『炎天、流星火」ッ!」
上空から、炎の弾を降り注がせる。
「『処刑執行(パニッシュメント・エンド)』」
純黒色の闇が、炎を飲み込んで破壊する。
「うん、だいぶ慣れてきた」
こいつ、成長速度が尋常じゃないな。
ここで倒しておかないと厄介になりそうだ。
なら、全力で仕留めるッ!
『桜嵐(サクラアラシ)ッ!』
炎が舞い散り、空間に咲き乱れる。
「『拘束崩壊(バーサーク・レストレイント)』」
身体の中から吹き出るような闇が、炎とぶつかり合う。
「ぐっ......!」
闇の波動は私の腕に傷を負わせた。
力は互角。
向こうも、炎をいくらか喰らったはずだ。
こいつは、私がここで倒す......!
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ーセルコー雪原 遺跡 中央ー
「いくぞ! ありったけを叩き込め!」
全方位から放たれる炎が、竜へと直撃する。
「くそっ、固いな」
それを振り払うが如く、翼を動かして突風を繰り出す。
「来るぞ、突風だ!」
「防ぐぞ。用意!」
残存するすべての兵力による氷魔法の壁が、突風を防いだ。
「このまま倒すぞ」
確かに攻撃は通用している。このままいけば勝利するだろう。
「いや、何か来る!」
「口元に光が......」
竜の口が光り、エネルギーを蓄えているようだった。
そのとき、人類軍の中を一人の男が通り抜ける。
「大佐!?」
「ここは私が防ぐ。任せろ」
「了解!」
竜は、口を大きく開け、そこから高エネルギーの光線を放射した。
(今度こそ、私が防いで見せよう)
目の前に立って、拳を構えた。
(集中しろ。目の前の敵を薙ぎ払うイメージだ)
右手首を15度回し、風をそこへ集める。
そして、荒れ狂う勢いで拳を突き出し、抉るような嵐をそのまま光線にぶつけた。
瞬間、光線のエネルギーは、風に流されて散った。
「うお! やっぱすげぇや。人類最強は伊達じゃなぇな」
「いや、私は良くて三番目だよ」
焦った竜は、上空に飛び上がろうとする。
「飛ばさせるな、抑え込め!」
「逃がすと、思うなよっ」
空へ上がろうとした竜に、風魔法の全兵力を食らわせる。
翼によって空気を押し上げ飛び上がろうとするが、吹き荒ぶ逆風によって、空を飛ぶことすらままならなくなる。
「今だ! 畳みかけろ!」
藻掻く竜に、ありったけの炎が命中する。
さらに、地に近づいたことで、そこに全ての近接戦闘部隊による剣戟も加わった。
「ここだ。ぶった斬る!」
アルフレート少佐による一刀が、竜に大きなダメージを与えた。
堪らず、竜は全てを振り切って飛び上がろうとする。
「まずいっ、逃げられるぞ!」
「問題ありませんよ。私が対象を固定します」
ブリュンヒルト中佐が、飛び上がろうとする竜の足元に立つ。
『天を穿つは氷雪山(Blizzard Lost Sky)』
地面から突き上がった氷は、竜に張り付いて固まった。
「よしっ、攻撃再開だ!」
すかさず、炎と剣戟が飛び交う。
「私たちも、攻撃できるはずだよ!」
防御に回っていた全氷部隊が、氷の先端を尖らせて竜へと放出する。
炎と氷が飛来し、近くでは剣戟が舞う。
それに耐え兼ね、竜は咆哮した。
「このまま決めるぞ!」
「爆弾を注ぎ込め!」
身動きが取れない竜に爆弾が投げ込まれ、至近距離で爆発する。
人類の最大火力を一身に受けた竜は、更に大きく咆哮した。
「竜の口が光った。来るぞ!」
人類軍は迎え撃つ姿勢を取った。
竜は咆哮し、その場で爆発して空高く飛び上がった。
「なに!? 自爆だと!?」
全力を出し、竜は一瞬の隙を作って空へと退避したのだ。
「対象の高度、目視100! まだまだ上昇していきます!」
「まだだ。炎を叩きこめ!」
逃すまいと、全兵力で炎をぶつける。
だが、竜は上昇を止めない。
「対象の高度200! 依然、上昇中です!」
「もっと火力がいる。爆弾をぶつけるぞ!」
「そうか! 風魔法で爆弾を飛ばすのか」
即座に案が出され、作戦が決行される。
「爆弾用意! 砲撃を開始する!」
風に乗った爆弾は、竜の周囲で爆発した。
「よし! 命中だ!」
「高度300、400、500! 上昇、止まりません!」
竜は、更に加速して上昇する。
「高度800! 上昇を止めて飛び回っています!」
限界高度で、回復を待つ。
「高すぎる。攻撃が届かない!」
「このまま続けば不利だ。何とか、地上に叩き落とさないと」
人類軍は、成す術無く立ち竦んでいた。
すると、
「あの、私にかなり良い考えがあるんですけど......」
ブリュンヒルト中佐がそんなことを言った。
「わかった。言ってみろ」
バルタザール大佐が聞き入れる。
「まず、私が氷の足場を複数作ります。そして、大佐はそれを風で竜のところまで飛ばしてください。ここまではいいですか」
「ああ、可能だ」
「それで、その浮いた足場に誰かが乗って、竜を落としてほしいんですが......」
ブリュンヒルト中佐が辺りを見渡し、一人を指さす。
「アルフレート少佐、あなたに頼んでもいいです?」
「え、俺ですか。いえ、やります。やらせてください!」
一瞬動揺したものの、決意を固めた。
「それでは、作戦を開始する!」
バルタザール大佐が合図を取った。
「いきます!」
ブリュンヒルト中佐が氷を出していく。
「『咲き乱れるは雪月花(Flower of Blizzard)』 」
氷が空間に咲き、足場の形に分解される。
「大佐、位置に付きました! 飛ばしてください」
「ああ、頼んだぞ!」
数多の氷と共に、アルフレート少佐は空高く飛んだ。
「アルフレート少佐、高度300! 目標との距離およそ500!」
最も強い風に乗り、規格外の速さで上昇していく。
「高度500! 目標までおよそ300!」
そこまで来て、竜の口が光った。
「まずい。光線が来る!」
「頼む。避けてくれ、少佐っ!」
(竜の口が光った......光線か!?)
高速で上昇する中、アルフレート少佐はいち早くそれに気づいた。
(一度狙いを定めれば変えられないはず。なら、定まった時、放出するために口を少し上げた時だ)
竜が口を少し上げて、光線を発射しようとする。
(今だ!)
近くの氷を蹴って、位置をズラす。
「くっ!」
僅かのところで、なんとか光線を躱した。
そして......
「高度800! 目標に到達しました!」
高度800。竜とアルフレート少佐が、氷の足場を挟んで対峙する。
少佐は、素早く足場を跳んでいき、竜の真上へ到達した。
「見ろよ。俺の方が上だぜ?」
そして、剣を大きく振りかぶった。
「俺は魔法も使えないし、特に才能もない」
己を鼓舞するように、少佐は言い始める。
「けどな、それでも今、俺にしかできないことがあるんだッ!」
そう言って、剣を竜に振り下ろした。
(俺じゃこのままこいつを切り落とせない。なら、地上に落とすことだけ考えろ。そうだ、狙うなら、翼だ)
そして、アルフレート少佐の剣は竜の右翼に突き刺さった。
「片翼じゃ、飛べねぇよな?」
バランスを崩し、竜が地上へと落下していく。
「高度800,700,600! 目標、急速に下降しています!」
「このまま、突き落としてやるっ.....」
「高度500,400,300! 依然、落下は継続!」
「落ちろおおぉぉぉォォッッッッッ!」
「高度200,100!」
そして、雪原の中央に、轟音が轟いた。
「高度0! 目標、地面に激突しました!」
Fall from sky to the ground......
Next development is the final subjugation............
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