005 愛の告白
『グリニャック様、愛しているよ』
『私も、グリニャック様を愛している』
はて、これは夢ですわよね。
今私は、真っ白なドレス、あえて言うのであれば、マーメイド型のウエディングドレスのような物を着ていて、タキシード姿のトロレイヴ様とハレック様が黒薔薇をわたくしに差し出してきて先ほどのセリフを仰っているという状態でございます。
これは『オラドの秘密』のゲーム内容とごっちゃになっている夢でしょうか? お二人がわたくしに愛を囁いておりますものね。
「お二人は、お互いの事を愛し合っているのでございましょう? わたくしの事等お気になさらずにいて下さって結構なのですよ」
『グリニャック様、それは誤解だよ』
『そうだぞ、私達はずっと昔からグリニャック様だけを愛しているんだ』
「まあ……」
夢とはいえ、推しキャラ二人に告白をされて嬉しくないわけではありませんので、わたくしの顔は思わず赤くなってしまいます。
飴色の雲のような場所に立って、わたくしは顔を赤くしたまま、トロレイヴ様とハレック様から無意識に黒薔薇の花束を受け取ります。
「けれども、お二人はあんなに仲がよろしいではありませんか。お互い愛し合っているのでございましょう?」
『とんでもない誤解だよ。確かにハレックとは仲がいいけど、あくまでも戦友でありライバル関係だよ』
『そうだぞ、グリニャック様。私達に男色の趣味はない』
「そんな……」
ショックですわ。夢の中と言えども、ショックですわ。
『まったく、グリニャック様が僕がハレックと居る時に、妙に熱い視線で見てきたのは、そんな誤解をしていたからなんだね』
『令嬢達に私達の仲が如何にいいのかを自慢していたのは、そういう意味があったのだな』
「だって、布教活動は欠かせませんもの」
『駄目だよ、グリニャック様。僕達はグリニャック様を愛しているんだから、勘違いしないでよね』
『そうだぞ、五歳の時に出会った時から、私達の想い人はグリニャック様だぞ』
「まあ……」
トロレイヴ様とハレック様の言葉に、顔の熱がどんどん上がっていきます。
「だって、わたくしは昔から、お二人の仲がうまく進展していくように、見守ると決めておりましたのよ?」
『だから、それが勘違いだって言ってるんだよ。グリニャック様は思い込みが激しいんだね』
『そうだな、私達が男色の関係にあるなんて、怖気が走るな』
「まあ……」
夢の中とはいえ、このような事を言われるとは思いませんでしたわ。
トロレイヴ様とハレック様の想い人がわたくし?
そんなゲームみたいな展開があるはず、ありませんわよね。
「わたくしは、お二人が仲良くなさっているのを見ているだけで幸せなのですけれども」
『じゃあ、違う形で幸せになれるように、僕達も努力しなくちゃいけないね』
『全くだ。想い人にとんだ勘違いをされたままとあっては、男としてだらしがないからな』
「……本当にお二人は男色の関係にありませんの?」
『ないよ。信じてくれないのかな?』
『グリニャック様、思い込みも大概にしないと、流石に呆れてしまうぞ』
「そ、それは困ってしまいますわ!」
お二人に呆れられるなんて、そんなの拷問ですわ。
夢の中とは言え、お二人に愛されているというのは幸せなのですが、どうしてこんな夢を見てしまっているのでしょうか? 昨晩のようにお二人が絡み合っている夢の方が余程元気になれますのに。
『グリニャック様、またなにか変な事考えてる?』
「そ、そんなことありませんわ」
『怪しいな。グリニャック様は、私達の想いをまだ信じてくれてはいないようだ』
「えっと……」
お二人がそれぞれわたくしの手を取って、指先にキスをなさっていらっしゃいました。
(きゃぁぁぁぁ! ご褒美⁉ でもなんか違わない⁉)
わたくしは内心心臓がバクバクなりながらも、お二人が手を離して下さらないので、困ったようにお二人を見ます。
『ごめんね、困らせたいわけじゃないんだよ。でも、僕達の想いをちゃんと受け止めてほしいんだ』
『グリニャック様、愛している』
「ちょ、ちょっと待ってくださいませ」
『『なにかな?』』
「お二人は、本当にわたくしを愛しているというのですか?」
『そうだよ』
『ああ』
お二人に手を持たれているので、赤くなった頬を隠すことも出来ずに、わたくしの顔の温度はどんどん上昇していきます。
『グリニャック様、かわいい』
『ああ、駄目だ。我慢できそうにない』
『僕も』
そう言ってお二人はわたくしの手を引っ張ると、それぞれわたくしの赤くなった頬にキスをしていらっしゃいました。
(きゃぁぁぁぁ!)
心臓が破裂するかと思いましたわ。
「い、いきなりは、卑怯ですわ。心の準備が出来ませんもの」
『だって、宣言しちゃったら逃げちゃいそうだったから』
『そうだな、グリニャック様には多少荒療治が必要なようだしな』
「そんな……」
ああもう、夢なのですから、わたくしの心臓の為にも早く覚めてくださいませ。
『グリニャック様、もしかしてこれがただの夢だと思ってる?』
「え、夢ですわよね?」
『それがただの夢じゃないんだ。神様が、私達の夢を繋げてくれているんだ。神様に出会った際に、グリニャック様が私達の事を誤解しているという説明も受けた』
「え……」
あの神様! なにしてくれやがっていますの! こんなところで無駄に出しゃばらないで下さいませ!
『グリニャック様は、僕とハレックがそう言う仲じゃないとしたら、僕達に興味がないのかい?』
「そんなわけありませんわ! わたくしはお二人の事が大好きなのですから!」
『そうか、それは良かった。男色を見るのが好きで、私とトロレイヴを婚約者に選んだと言われたら、流石にショックだからな』
「そんなことありませんわ。わたくしは、お二人の事が大好きで、お二人の仲を見守るために婚約者になったのですもの」
『うーん、だから僕達はそんな関係じゃないよ』
「うぅ……」
そんなぁ、お二人がそういう関係じゃないなんて、ショックですわ。
わたくしはお二人に抱きしめられるような格好のまま、顔を真っ赤にして、それでもため息を吐き出しそうになってしまいました。
『グリニャック様。私達の気持ちがいまいち伝わっていないようだな。もっと違う形でこの気持ちを伝えてやろうか?』
そういうなり、ハレック様がわたくしの顎を掴み、顔をハレック様の方に持って行くと、唇にキスをされてしまいました。
『あ! ずるいよハレック。僕もグリニャック様にキスしたい!』
そう言うと、今度はトロレイヴ様が私の頬に手を添えて顔の向きを変えさせると、ハレック様と同じようにわたくしの唇にキスをしてきました。
(きゃぁぁぁぁっ! キスされた!)
「な、な……」
『ふふ、ごめんねグリニャック様。でもこれで僕達の想いは伝わったかな?』
「そ、それは……」
お二人が私を好いていてくれているという事は、嫌と言うほど思い知らされましたわ。
それにしても、いきなりキスって、キスって……婚約者だからと言って早すぎるのではないでしょうか。
夢の中とは言え、お二人の行動が大胆ですわ。
ああ、穴があったら入りたい、隠れたい、とりあえず心を落ち着かせたいですわ。
『グリニャック様、本当に愛しているよ』
『ああ、他の誰でもない、グリニャック様の事を愛している』
「はうぅぅ」
わたくしは何と返していいのかわからずに、情けない声が出てしまいます。
『グリニャック様、かわいい』
そういってトロレイヴ様が、またわたくしにキスをしてきます。
『本当に、普段とのギャップがたまらないな』
ハレック様も、キスしてきました。
もう頭の中がパニック状態ですわ。誰か、この状況を説明してくださいませ。
「お、お二人が男色の関係にないことは、わかりましたわ。そして、その……わたくしの事を想ってくださっている事も思い知らされましたわ」
『『それはよかった』』
「で、でも。今までお二人の仲を応援してきておりましたので、突然行動を変えるのは、なかなか難しいものがありますわ」
『困ったな、僕達はグリニャック様に僕達の愛を受け入れて欲しいんだけどな』
『いくら応援しても、私とトロレイヴがそのような関係になることはないぞ』
「そんなぁ……」
腐女子としてテンションが下がってしまいますわね。推しカプを本人達から否定されてしまいましたわ。
『うーん、グリニャック様、こっちを向いてくれるかな?』
「はい、なんでしょうか?」
トロレイヴ様の言葉に、トロレイヴ様の方を向きますと、そのまま鎖骨の所に顔を埋められて、皮膚を強く吸われました。
『私も』
背後からは首筋の所にハレック様が顔を埋めて皮膚を強く吸ってきました。
こ、これは所謂キスマークを付けているという所なのでしょうか!?
ああ、本当に頭が爆発してしまいそうですわ。
いったい急にどうしてこんなことになってしまいましたの?
……神様のせいですわよね。本当に変なところででしゃばりやがりまして、いい迷惑ですわ。
『『よし』』
お二人は、わたくしの肌を見て満足したように揃ってそう仰いました。
つまり、しっかりくっきりキスマークがついているという事ですわよね? うう、恥ずかしいですわ。
そう思っていると、視界が次第に霞がかっていきます。
『ああ、時間だね。でもグリニャック様覚えておいて、僕の愛する人はグリニャック様だってことを』
『私も、グリニャック様だけを愛しているぞ』
そう言われたところでわたくしの意識は完全にホワイトアウトしてしまいました。
……妙な夢を見ましたわ。……夢、ですわよね?
トロレイヴ様とハレック様に愛の告白をされるなんて、そんな都合のいい事、夢に決まっておりますわ。
そんな事を考えていると、寝室ドアがノックされます。
「グリニャックお嬢様、おめざめでしょうか?」
「ええ、起きておりますわ」
寝室に入って来たリリアーヌが、はだけた寝着姿のわたくしを凝視してきます。なんでしょうか?
「グリニャックお嬢様、シーツに虫でもついていましたか?」
「え?」
「首筋と鎖骨の部分が赤くなっておりますよ」
「っ!?」
夢! 夢ですのになんで現実世界に影響を及ぼしているのですか!
……そ、そうですわ。人間思い込みが激しいと、前世でなんでもない棒を押し付けられても火傷を負うと聞きましたし、きっとこれも夢での衝撃が強すぎて、それが形になって出てしまったのですわよね。
「申し訳ありません、今後このような事がないように致します」
「き、気にしなくてよろしいですわよ」
そう言って、朝の支度を始める為寝室を出ると、衣裳部屋に入ります。
……困りましたわ、鎖骨のキスマークは制服でもちろん隠れますけれども、首筋のキスマークが隠れませんわ。
「リリアーヌ、このキ、虫刺されを隠す方法はありますかしら?」
「そうでございますね、練り白粉を付けるという方法もございますが」
「お願いしますわ」
「かしこまりました」
わたくしはなんとかキスマークが目立たない様にしてもらい、いつものようになんでもない顔をして食堂でお父様とお母様と一緒に朝食を頂いてから学園に向かいました。
学園に到着いたしますと、いつものようにトロレイヴ様とハレック様がお迎えに来てくださっているのですが、昨晩の夢のせいか顔を合わせるのが恥ずかしいですわね。
「「おはよう、グリニャック様」」
「おはようございます、トロレイヴ様、ハレック様」
「グリニャック様。はい、これ受け取ってくれるかな?」
「私の分も受け取ってくれ」
「え?」
そう言って差し出されたのは、夢の中でいただいた黒薔薇の花束にそっくりなもので……。
「あの……」
「夢の事、忘れて貰ったら嫌だからね」
「そうだな、あれは夢だけど夢じゃなかったって言う事を自覚してほしいからな」
「なぁ!?」
わたくしの顔は途端に赤くなってしまいます。
いえ、待ってください。その前にお二人にわたくしが、お二人で腐妄想をしていたことがバレておりますのよね? ど、どういたしましょう!
お二人が男色の仲でないと言うのなら、そのような妄想を押し付けられていて、迷惑と感じずに何を感じると言うのでしょうか。
わ、わたくし、お二人に嫌われてしまったでしょうか。
「申し訳ありません!」
「「え?」」
「わたくしが、お二人の事で妄想を滾らせていたことは、さぞかしご不快ですわよね。わたくしの事等、ゴミクズのように見えてしまいますわよね」
前世の友人が、彼氏に腐女子バレして振られてしまったと言っていたことがございますもの。
「グリニャック様、とりあえず顔を上げて?」
「そうだぞ、確かにショックと言うか驚いたというか、グリニャック様にとって私達が恋愛対象ではないのではないかと言う不安には襲われたがな」
「そんな! お二人の事はちゃんと好きですわ!」
「それは良かったよ。安心してグリニャック様、僕達はグリニャック様の事を嫌ってなんかいないから」
「ふえ?」
「むしろ、グリニャック様に自分達の想いを伝えきれていなかった僕達の責任だよね」
「そうだな。まあ流石に男色と妄想されているとは思わなかったがな」
「あぅ……」
ああ、穴があったら入りたいですわ。今此処に穴を掘ってしまいましょうか。
「ほら、グリニャック様、この花束を受け取ってくれるかな?」
「さあ」
「え、あ、はい」
わたくしは改めて差し出された黒薔薇の花束を思わず受け取ってしまいました。
「グリニャック様、覚悟してね。今後は遠慮なくアタックさせてもらうから」
「私もだ。容赦なく私達の想いをぶつけさせてもらうぞ」
そんな、今まで絶対にトロレイヴ様とハレック様は両思いだと思っておりましたのに、ここにきていきなりわたくしを愛しているとか、そんな事を言われても、脳内で処理しきれませんわ。
落ち着くのですわよ、わたくし。お二人の仲の良さは変わっていないのですから、なにも困ることはないではありませんか。
そ、そうですわよ。わたくしを愛してくださっているという共通の想いがあるのですから、お二人は通じ合っているのですわ。
OK、何の問題もございませんわ。確かにお二人は愛し合ってはいないようですけれども、仲の良さは変わりありませんし、共通の想いがあるという事は確かですもの。腐女子として、自分がその恋愛対象になっているというのはちょっと思うところがありますけれども、何の問題もございませんわ。
今後もお二人は仲良く過ごしてくださるのですから、それを見て満足すればいいではありませんか。
そ、それにわたくしを、あ、愛してくださっているというのも、その嬉しいですし。
推しからの愛を受け止めなくて、何を受け止めると言うのでしょうか!
そうですわよ、わたくし。何の問題もございませんわ、冷静になるのですわよ。
お二人の愛を受け入れて、尚且つお二人の仲の良さを間近で見ることが出来るなんて、腐女子としては最高ではありませんか!
そうですわよ、今のわたくしの立ち位置は最高なのですわ、だから大丈夫ですわ!
「わかりましたわ、お二人の愛は確かに受け止めましたわ。わたくしも、お二人の事を好いております。いえ、愛しておりますわ」
そうですわよ、前世で推しなのですもの、もちろん愛しておりますもの、愛を受け入れて何の問題もございませんわよね。
「グリニャック様、嬉しいよ」
「そうだな、想いが通じて嬉しいな」
「わたくしも嬉しいですわ」
そう、お二人の愛を受け入れつつ、わたくしはお二人が仲良くなさっている姿をこの目に焼き付けるのですわ!
わたくし達は周囲から視線を集めていることに気が付き、顔を赤くしますと、そそくさと校舎の中に入って行きました。
【アンジット視点】
「わたくし、トロレイヴ様とハレック様に告白をされてしまいましたの」
「はあ、そうですか」
今さら何を言っているのでしょうか、グリニャック様は。
トロレイヴ様とハレック様がグリニャック様を愛しているのは、はたから見ていてもわかりきったことではございませんか。
グリニャック様だって、お二人が如何に素晴らしいのかと、いつものろけていらっしゃったではございませんか。
相談があると言って、放課後にいきなり学食で小さなお茶会が開かれ、わたくしとカトリエル様、ロリゼット様が呼び出されたのですが、相談の内容ってこれですの?
「だ、だってわたくしは今までお二人の仲が良ければそれでいいと思っておりましたのよ? それがいきなりわたくしを愛しているなんて言われてしまって、脳内がパニックなんですの」
……えっと、つまりどういうことでしょうか? グリニャック様はお二人の仲の良さが好きで、自分が愛されていることに気が付いていなかったというのでしょうか?
まさかねえ。あんなに三人で毎日のように仲睦まじくなさっていましたのに、今更愛の告白をされたからと言って動揺とか、有り得ませんわよねえ。
まったく幼少の頃より、三人の仲の良さは、貴族の間でも有名で、その中に割って入ることなどできないと、それはもう誰しもが言っていたことですのに、肝心のグリニャック様が愛の告白を受けたぐらいで動揺するとか、どれだけ純粋ですの?
いつもは毅然とした、けれどもトロレイヴ様とハレック様の事を語る時は、まさに恋する乙女と言った感じのグリニャック様が、こんな風になるなんて、誰が予想できたでしょうか。
「でも、グリニャック様はお二人の事を愛しているのでしょう? 何か問題があるのですか?」
「カトリエル様、それは、何の問題もないのですけれども。愛の告白ですのよ。動揺してしまいますわよ」
だから、なんで今更愛の告白程度で動揺しているのですか。
何かの折につけては、深紅の薔薇や黒薔薇をプレゼントされていたでしょうに。
まあ、確かにトロレイヴ様とハレック様は、その仲の良さから、グリニャック様を差し置いて想いあっているのではないかと言う噂が定期的に出てきますが、グリニャック様との仲の良さを目の当たりにして、その噂も毎回すぐ消えてしまいますのよね。
……まさかとは思いますが、グリニャック様はその噂を信じてしまっていたのでしょうか?
いえ、まさかね。あんなにお二人の事を熱い視線で見ていたのですもの、そのような事あるはずがありませんわよね。
「グリニャック様、動揺しているのと、首筋の赤いうっ血と何か関係が、あるのですか?」
「え!? ロリゼット様何を仰っているのですか?」
「……あら、そういえばうっすらと赤いうっ血が」
「アンジット様まで!」
はて、昨日なにか三人の間にあったのでしょうか? 練り白粉で隠しているようですけれども、赤いうっ血、まあキスマークですわよね。それをされるような出来事があったのでしょうか?
それで動揺なさっているとか?
……グリニャック様、見かけによらずというか、見かけのままと言うか、ピュアですわね。
まあ、確かに見えるところにキスマークを残すのはいささかマナー違反のような気も致しますが、わたくしだって、婚約者とキスぐらいいたしますわよ?
まさかとは思いますが、グリニャック様は十年も婚約をなさっていて、未だにキスもなさっていないとか、そんなことはございませんわよね?
この夏の長期休暇では、三人で領地に行って楽しく過ごしていらっしゃったのでしょうし、三人の仲も進展したはずですわよね。
流石に同衾とか、それ以上のことはないとは思いますが、キスぐらいはしていますわよね?
「グリニャック様、結局今回のお茶会は、なにがテーマですの? トロレイヴ様とハレック様に愛の告白を受けて困っているという相談ではありませんわよね?」
「……その相談ですわ」
「はあ、グリニャック様。三人の仲の良さは貴族間でも有名ではありませんか。トロレイヴ様とハレック様がグリニャック様の事を愛しているのは、周囲から見てもわかりきったことでしてよ」
「そ、そうなのですか? わたくしは完全にお二人は想いあっているのだと思っておりましたのよ?」
「まあ! あのような下らない噂を信じていらっしゃいますの? ありえませんわよ。お二人はちゃんとグリニャック様の事を愛しておいでですわよ」
「ぁぅ」
全く、淑女の鑑とまで言われているグリニャック様がこのようになってしまうなんて、いったい何があったと言うのでしょうか。
「とにかく、トロレイヴ様とハレック様は幼少の頃よりグリニャック様を一筋に愛していらっしゃいますわよ」
「そうですよ」
「そう、ですね」
「だ、だって……」
「グリニャック様、お二人の愛を受け入れられないとか仰いますの?」
「そんなことありませんわ!」
「では何の問題もないではありませんか」
「そ、それは。確かに問題はないのですが、いきなり愛の告白をされて頭の中がパニック状態と言いますか……」
まさかと思いますけれども、今まであんなに仲が良くなさっておいででしたのに、トロレイヴ様とハレック様は実際に口頭で愛を囁くことをしてこなかったのでしょうか?
それでグリニャック様が動揺なさっているとか? それでしたら、トロレイヴ様とハレック様の怠慢という事になってしまいますわよね。
想っているだけでは伝わらないこともございますのに、ちゃんと口に出して言わなくてはいけませんわよね。
グリニャック様は、お茶会のたびにお二人が如何に素晴らしいか、麗しいか、仲が良いかという事をお話されていらっしゃいましたのに。
……あら? グリニャック様から確かにのろけのような事は毎回聞かされておりますけれども、お二人の事を好きだ、愛しているという単語を聞いたことはございましたかしら?
もしかして、グリニャック様もお二人に好きだとか愛しているだとか伝えていなかったのでしょうか? え、それってお互い様なのではないですか?
……あ、いえ。グリニャック様はお二人の事が好きだとは言っておりましたわね。そうですわよ、ちゃんと言っておりましたわ。わたくしも動揺のあまり記憶があいまいになってしまっておりますわね。
「とにかく、婚約者同士なのですから、愛があるに越したことはないではありませんか。何も問題がないのでしたら、素直に受け入れればよろしいのではありませんか?」
「そ、そうなのですけれども」
「歯切れが悪いですわね、グリニャック様はお二人の事を愛しておりませんの?」
「そんなことありませんわ!」
「では何の問題もないではありませんか」
「……そう、ですわよねえ。何の問題もございませんのよね。わたくしは今後も、仲の良いお二人を見ることが出来るのですから、何の問題もないのですわよね」
「まあ、正室と側室になる方々が仲が良いのはいいことですけれども」
なんだか、グリニャック様は噂を鵜呑みになさっている節がございますわね。
友人として、トロレイヴ様とハレック様に、もっとグリニャック様に想いを伝えるように助言したほうが良いですわね。
……はあ、なんだか考えるのも馬鹿らしくなってきましたわ。
「そう言えば、プリエマ様が王宮に住まわれるようになったのですってね」
「ええ、そうですわ。将来の大公妃になるために今から準備をするためだそうですわ」
「クラスで、いかに自分がウォレイブ様に愛されているかと声高に謳っていると聞きましたわ」
「まあ、そうなのですか」
そうやって、お茶会の内容はグリニャック様の恋愛相談から、プリエマ様の話題に変わっていきました。
なんといいますか、方向性は違いますけれどもお騒がせ姉妹でいらっしゃいますわね。
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