初恋とは

@Joew

第1話

 突然だが、僕は失恋をした。そんな僕の失恋話を少し聞いて欲しい。そして出来れば笑

い飛ばしてくれるとありがたいな。

 



 失恋した事を知ったのは今日の夕方のこと。新発売の死にゲーに熱中し、昨晩から今朝にかけてずっと起きていたので、日が傾き始めてようやく目が覚めた。起きてすぐにいつも通りのSNS徘徊を始めた。昨今は大陸での争いだの、著名なライバーの不祥事だの日々の話題に事欠かない。でも、日々の時間を浪費し続ける僕にとって、そんな話はどこか違う世界のコトに思えた。

 ルーティン通りインスタを見てみる。僕のインスタは、小中高の仲の良い同級生のみがフォローフォロワーである60人程度の小さなアカウントだ。それでも、高校を卒業し第一志望であった、それなりに名の知れた国立大学に入学するも、流行り病の影響でほとんど新たな友人が出来なかった僕にとっては、同じ世界で起きているコトを共有してもらえる唯一の場だった。

 皆、小洒落たカフェやカラオケ、ボーリング、焼肉などの写真から、バイトや学校での愚痴、彼氏彼女とのデートの様子など、さまざまな日常を発信していた。かくいう僕は、そんな写真を眺めては既読機能と化したイイネを押し、自分のことは全く発信しない見る専マンである。時勢柄もあって、地元を出た僕は、ほとんどの友人達と卒業して長らく会えておらず、来年開催されるであろう成人式での再会を楽しみにしている。てゆうか、ちゃんと来年は成人式あるよね?一応同窓会のLINEグループに招待されたし、同窓会もあるんだよね?と、入学してすぐの頃にも感じた、流行り病に対する憤り感じつつ、僕は一つの投稿を発見した。発見してしまったのだ。




 それは、とある女子の投稿だった。元同級生であり、僕の初恋の人でもある女の子だ。彼女とは小中と同じ学校で、高校で別れるという、うちの学区ではよくあるパターンだった。それでも、なんとか彼女との繋がりを保ちたかった僕は、彼女の誕生日に日付が変わってすぐにおめでとうLINEをしたり、たまたま模試の会場で会えた日には自分から話をしに行ったりと、とにかく彼女との縁が切れないようにと必死だった。今思えば、彼氏でもない男から時たま意味のない連絡が来たりして彼女にとっては迷惑だったかな、と過去の自分を殴ってやりたい気持ちに苛まれる。本当に何してくれてんだ過去の僕。


 僕が、彼女を明確に好きになったと自覚したのは、小学五年生の頃だったと思う。出席番号でたまたま彼女と前後になり、当時から勉強だけはそこそこ出来た僕が、彼女に勉強を教えた。そこから徐々に仲良くなっていき……といった、恋愛小説にでもありそうなありきたりなきっけから始まった初恋だった。当時の僕は、なんとか彼女に意識してもらおうと、彼女の後を追って児童会に立候補したり、彼女が野球好きだと知ってから野球を始めたりと、今にして思えば直接的なアピールは何一つ無いじゃないかとツッコみたくなる、ある意味で小学生らしい?アプローチをして、彼女の気を引くことに必死だった。とにかく当時はそれだけ彼女の事が好きだった。その甲斐あって?か、小学校を卒業する頃には、彼女の仲の良い男友達ぐらいのポジションには居れたと思う。あくまで主観ではあるが。


 中学に入学してからは、クラスも部活も別になり、小学生時代と比べると少し疎遠になりはしたが、偶に廊下ですれ違うと小話をする位の関係ではいられた。ただ、三年になると幸運にも同じクラスになる事ができた。修学旅行で同じ班になれる様に画策したり、机が隣になった時は机の下でガッポーズをした。それだけ、彼女に恋焦がれていたのにも関わらず、僕は彼女に告白しなかった。否、出来なかった。当時の僕はとにかく自分に自信がなかった。顔も平凡だし、体型も入学してすぐに柔道部に勧誘される位にはでっぷりしていて、その上受験のストレスも相まってデブといって差し支えない位になっていた。(ちなみに当時のあだ名はベイマックスだった。)スポーツもそこそこ、勉強はそれなりといった感じで、自分に自信が持てる要素を何一つ見出せていなかった。それに対して、彼女は少し茶色がかったショートボブで、陸上部に所属していたこともあって健康的なスタイル、高嶺の花の様な綺麗さというよりは、親しみやすい笑顔が素敵なそんな女の子だった。

 当然、当時の僕は彼女と自分を比較して釣り合うなんて露とも思わず、せいぜい卒業アルバムの寄せ書きに、E•M•Tと、到底意味の分かりようのない言葉を書き残すのが精一杯だった。バカだと思うだろう。しかし、何とかして彼女に想い知られないように自分の想いを伝えたいという、思春期特有の大きな自己矛盾を解決するために当時の僕が考え出した苦肉の策だったのだ。当時自分の中でブームだった、リゼロの、「エミリアたん まじ 天使」を表すワードをそのまま流用して彼女への想いをあらわすという、本当に意味の分からない策だったが、彼女がそのワードを知らないはずという謎の自信のもと、僕はその策を実行に移した。(彼女の名前の頭文字もEで丁度良かった) 当然彼女にはその場で、「E•M•Tってどういう意味〜?」と尋ねられたが、そこは思春期パワーのゴリ押しで誤魔化したことを今でも鮮明に覚えている。そして時たま思い出しては、布団をゴロゴロと転げ回りたい衝動に駆られる。本当、思春期って恐ろしい。そんなこんなで卒業式を迎え、結局告白という形では想いを伝えられず、僕の中学校生活は幕を閉じたのだった。


 そこからの高校三年間は自分にとってあまり印象にも思い出にも残っていない。とにかく学校の勉強について行くのに必死だった。偶に彼女のインスタの投稿を見ては、淡い恋の灯火がまだ胸に小さく灯り続けているコトを自覚し、少しでも彼女に釣り合う男になろうと勉学と筋トレに励むといった生活を続けていた。その甲斐あって勉学の面に関しては、第一志望であった大阪の国公立大学に進学でき、体も以前と比べ物にならないほど健康的になったが、それくらいしか誇れることがないくらい、灰色の高校生活だった。


 そんなこんながあり、今に至る。彼女とは受験の結果を報告をしあった際に、幼少の頃からの夢だった幼稚園の先生になる為に、地元三重の教育大学に進むと聞いて以降、連絡を取れていなかったが、インスタの投稿は欠かさずチェックしていた。そして、今日は、彼女の誕生日である。当然僕も毎年通り日付が変わってすぐにおめでとうLINEを送っていたが、彼女のストーリーにはお洒落なカフェで映えてるケーキや、Happy Birthday の文字のバルーンなど誕生日らしい写真が投稿されていた。その投稿の中に、一人の男性の後ろ姿が写っている写真を見つけた。見つけてしまった。頭が真っ白になった。昨晩熱中した死にゲーシリーズの YOU DIED の文字列が脳に浮かんだ。一度スマホを閉じる。心臓の音がなぜか全身から聞こえる。普段は間違えない暗証番号を3回も間違え、深呼吸をし、インスタを再起動するも、その投稿は現実だった。投稿主を確認するも、やはり彼女の投稿で間違いなかった。



 考えてみれば、彼女に彼氏が居ないなんてのは、初恋を拗らせた童貞のキモい妄想で幻想だったのだ。自分でも馬鹿でキモいと思う。彼女は美少女で優しくて僕が何年も恋焦がれた世界で一番笑顔がステキな人なのだ。当然、周りの男どもがそんなステキな女の子をほっとくはずも無いなんて、少し冷静に考えれば分かるはずだ。でも、ココロのどこかで、アタマの片隅で思っていた。願っていた。成人式まで、再び彼女と会えるその時がくれば、僕の初恋は動き始めるのだと。次こそは彼女に直接告白するのだと。その為の努力もしたのだと。でも、そんなに甘い話がある訳なかった。僕の初恋は今、終わったのだ。はたからみたら、始まってすら無かったかも知れない。でも、僕はちゃんと一人の女の子を好きになって、その人に見合う男になりたくて頑張った。でも、彼女にも同じように別の好きなヒトが出来たのだ。これは、ちゃんとした失恋だろうか。初恋は呆気なく終わるというが、確かに呆気ない。彼女の好きなヒトになれなかった悔しさと、適当な言い訳で自分が彼女に対して釣り合わないと告白する勇気が出せなかった後悔と、彼女の彼氏になった人に対する嫉妬と羨望。そして、彼女には幸せになってほしい、でも本当は自分が幸せにしたかったなど、自分でも自覚しきれないほどの数多の矛盾した感情が心にぐるぐると渦を巻いている。そして、この感情の渦をどうすれば良いのかも分からない。どこに向ければ良いのかも分からない。ただ、これが失恋なのだと。こんなに大きくなっていた、このぐるぐると回り続ける渦の大きさが自分の想いの大きさだったのだと。これからどうしよう。それすら考える余裕もなく、込み上げてきた涙が流れてしまわないように瞼で蓋をして、僕はふて寝をするのだった。




 あれから、どれくらい経っただろうか。目を覚ますとすっかり朝陽が顔を出していた。不思議と昨日の渦はさっぱり消えていた。でも、あの渦を忘れてもいけないとそう思った。なんだか忘れる事は、彼女にも、そして過去の自分にも失礼な気がしたから。とりあえず、散歩にでも行こうか。次は、自分に対する後悔の無い恋をしよう。その為に、もっと良い男になってやろうと、そう心に決めた。でも、彼女よりもステキな女の子なんているのだろうか。

 

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