第17話 ブラックとの別れ

 ブラックがいち早く結界を作り、その黒い集合体を閉じ込めたのだ。

 だが、以前見た事があるブラックの結界と違って、その結界は時折揺らいでいるように見えたのだ。


「エネルギー量が多いため、いつまで結界がもつかわかりません。

 ただ、このエネルギーを封印するか、消滅させるかしないと、いずれ何かを依り代にしてドラゴンが復活する事になるでしょう。

 だから、今どうにかしなければいけない。」


 魔人の頂点とも言えるブラックがとても焦ったように話したのだ。

 このドラゴンのエネルギーがどれだけ強大なのか。

 横にいた魔人の部下であるユークレイスもそれを見て不安な顔をして言ったのだ。


「これは、ブラック様と同じくらいの魔力を感じます。

 ・・・分断されていてもです。

 もし一つとなると、誰も手出しは出来ないものとなるでしょう。」


 冷静なユークレイスがそう言うなら、確かなのだろう。

 私にできる事はもう何も無いと、結界を見つめるしか無かった。


 気付くと、横に一人の青年が立っていたのだ。

 何処かで見たような気がするのだが、誰だろう。

 そして彼は座り込んでいた私の元に来て、意外な言葉を言ったのだ。


「舞、また助けられたな。」


 よく見るとそれはアクアだったのだ。

 いや、正確に言うと成長したアクアだったのだ。

 座り込んでいる私の前に笑顔で立っていたのだ。

 いつの間にか人型に戻っていて、成長していたのだ。

 そして私の手を取って立ち上がらせてくれたのだ。

 私が立っても、見上げるくらいの身長であったのだ。


「アクア、すごい。

 成長したのね。」


「そうみたいだな。

 自分では見た目は分からないが、身長が高くなったぞ。

 ユークレイスと同じくらいだな。」


 そしてブラックの結界を見てアクアはつぶやいたのだ。


「残りは絶対に封印しないとまずいな。」


 ブラックがアクアに入り込んだドラゴンのエネルギーを結界で隔離したのだが、ドラゴンのエネルギーはまだ元の石にも残っていたので、新しい石への移し替えも必要であった。

 しかし、アクアから出てきたものが一番大きく厄介だったのだ。


 アクアはとりあえず、石と石の間に立って元の石からの移し替えを再度始めることにした。


「前の私とは違うぞ。

 それにまだ、舞の薬も効いているだろうから私の中に入り込んでも大丈夫だ。

 すぐに移し替える事もできるぞ。」


 今度は大丈夫と私に笑顔で話したのだ。

 今のアクアならきっと上手く出来ると思えたのだ。


 しかし、問題は外に出てきたドラゴンのエネルギーである。

 ブラックの作る結界をも破ろうとするのであれば、かなりの強さの持ち主なのだ。

 ただ、実体はなくエネルギーだけの存在のためドラゴンが復活した訳では無かった。

 そのエネルギーをどうにか消滅させるにはブラックの力でしか無いと思われたのだ。

 だが、予想外の大きさに魔人達も圧倒されていたのだ。


 ブラックが結界から目を私達に移すと、冷静に話したのだ。


「ユークレイス、魔人の国に戻って他の幹部に状況を伝えてください。

 そして、ジルコンに後は頼むと伝えるように。」


 ユークレイスは一瞬戸惑ったが、ブラックの言う通り瞬時に魔人の国に行くために消えたのだ。


「スピネル、舞とシウン殿を頼みましたよ。

 いざとなったら、すぐに移動するのですよ。」


 スピネルは頷いてブラックを見たのだ。


 そしてブラックが私のところに歩いてきて、さっきの緊迫した顔から優しい顔になったのだ。

 ブラックは、私をぎゅっと抱きしめて小声で話したのだ。


「スピネルの言う通りにしてください。

 舞は無理をし過ぎるから。

 約束してくださいね。

 そして、出来れば私に会いたいと思っていてくださいね。

 後、舞は嫌がるかもしれませんが、あの薬を一度だけ作ってください。

 それが、みんなを助ける事になると思います。

 わかりますね?」


 そう言って私を見下ろして肩に手を置くと、優しく唇にキスをして微笑んだのだ。

 そしてすぐに離れると、自分の作った結界へと駆け出したのだ。

 私は力無く座り込んで、何も言葉を発する事ができなかった。

 何故なら、それが最後の別れのような気がしてならなかったからだ。

 最後にブラックが話したのは、闇の薬の事であるのは明らかであったからだ。



 ブラックは躊躇なく結界に入り、黒い集合体の中に消えて行ったのだ。


 

 

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