第15話 アクアの意識
変貌したアクアは大きな唸り声を上げていたが、動き回る事はなくその場に留まっていた。
ただ、洞窟の壁に腕や翼をぶつけたりして苦しそうに見えたのだ。
もしかすると、自分の中に入ってきたドラゴンを追い出すように戦っているのかもしれない。
このままドラゴンのエネルギーに侵食されたままでは、いずれアクアは消えてしまう。
そうなれば、ドラゴン復活と同じでは無いのだろうか。
自分の役目と思って封印に来たアクアを私はどうにか助けたいと思った。
私はどうにかならないかとブラックを見たのだ。
するとブラックが変貌したアクアを見て口を開いたのだ。
「・・・もしアクアの自我が失われていて暴れ出すようなら、決断をしなければならないでしょう。」
そう言いながら、ブラックは下を向いたのだ。
スピネルが複雑な顔をしてブラックに話したのだ。
「それってどういう意味、ブラック。
まさかアクアを消滅させるわけじゃ無いよね。
そんなこと、絶対に嫌だからね。」
「スピネル、私もそんな事はしたく無いよ。
アクアの自我の方が強い事を信じているが、もしもの時は覚悟を決めなくてはならないのだよ。」
私もアクアを消滅される以外の方法が絶対あると一生懸命考えた。
もしも、アクアの力の方が強いならやはりこの薬を使う方がいいと思うのだが、絶対の自信が無いのだ。
その時、胸元のペンダントが光ったのだ。
そうだ、なんでこんな大事な事を忘れていたんだろう。
私とアクアはこれで繋がっているのだ。
そしてブラックも。
前にブラックが言っていたが、魔獣にこの石を通して魔力を込めて強くする事が出来ると。
もし復活しようとしているドラゴンに侵食されつつあるなら、それに対抗できる力を注げるのではないか。
そうなれば、薬を使い異物であるドラゴンを追い出せばいいと思ったのだ。
私は自分のペンダントを掴んで、アクアに呼びかけたのだ。
○
○
○
アクアの意識はもうろうとしていた。
祭壇に向かい石を置き、儀式を始めるまでは良かった。
そして少しずつドラゴンのエネルギーが入ってくるのを感じたのだ。
新しい石に流すだけなら、集中さえすれば問題なく出来ると思ったのだ。
そう、今までの長老達と同じに。
だが違ったのだ。
エネルギーだけでなく、ドラゴンの意識が自分に入り込んで来るのだ。
それはなんとも気持ち悪いもので自分を追い出そうとしている事に気付いたのだ。
どんなに対抗しても、どんどんとドラゴンの意識が入ってきて、自分の中に満たされていくのがわかるのだ。
そして自分自身が、徐々にちっぽけな存在になっていく気がしたのだ。
しかし失敗を繰り返したくなかった。
前回は失敗したのだ。
長老達が移し替えを行おうとする前に、一人の若造が何を思ったのか、自分にもできると隠れて儀式を行おうとしたのだ。
移し替えの石が盗まれるなど、今まで無かった事だった。
しかし今と同じようにドラゴンのエネルギーを移しきれずに、その者を依り代にドラゴンが復活してしまったのだ。
暴れ始めたドラゴンにより里は焼き尽くされたが、なんとか長老達の命と引き換えに、また封印する事が出来たのだ。
やはり、その時の失敗した若造と同じで、私はまだまだ器では無いのかもしれない。
どうも、自分の意識が途切れ途切れになってきたようだ。
・・・この世界を助けられないばかりではなく、自分がこの世界を火の海に変える当事者になってしまう事が、・・・本当に辛い。
自分を救ってくれたブラックの期待に・・・応えたかった。
スピネルとも色々な所にまだまだ・・・行ってみたかった。
そして不思議ではあるが・・・人間である舞の為に、自分ができる事を・・・してあげたかったのだ。
・・・舞に初めて会った時、私はドラゴンと同じ姿であった。
核から復活したばかりで、まだまだ体は弱っていたのだ。
舞は恐れる事なく・・・私を助ける薬を使ってくれたのだ。
そして約束通り・・・私の元にブラックを連れて来てくれたのだ。
人間と言うものは、私を見ると・・・逃げるか攻撃してくるかどちらかしかいないと・・・思っていたのだ。
・・・だが、違ったのだ。
舞はドラゴンの姿の私も人型の私も・・・どちらも同じように接してくれたのだ。
そして・・・とても優しかったのだ。
だからブラックでは無いが、私にとっても・・・大事な存在であり、舞の為になる事なら・・・何でもしたかった。
ああ・・・もうだめかもしれない。
みんな、舞、すまない・・・。
『アクア、アクア、聞こえる?
自分を見失わないで。
あなたにはたくさんの仲間がいるわ。
一人じゃ無いのよ。
ブラックがあなたに力をくれるわ。
そしたら、私がドラゴンを追い出してあげる。
だから、信じてがんばって。
大丈夫よ、アクア。
きっと上手く行くから。』
・・・意識の混濁のせいかな。
遠くに舞の声が聞こえた気がした。
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