第9話 精霊の加護
私とユークレイスは一瞬で岩山の麓まで移動したのだ。
周辺は強い風が吹いていたが、その場所だけは岩場の陰で風の影響を受けず、落ち着いていたのだ。
そこでは、サイレイ国のシウン大将の部隊が岩山の調査をしているようだった。
近くの兵士に話を聞くと、シウン大将とブラック達が岩山の中腹に向かったらしいのだが、はっきりとは場所がわからないらしい。
ユークレイスは麓から岩山を見上げたのだ。
「大丈夫です。
気配を追えますので。
舞殿、また掴まってください。」
私は頷き、また腕にしっかりと掴まったのだ。
私達はブラック達の気配を追って、岩山の中腹に移動したのだ。
よく見ると、岩陰に小さな洞窟の入り口を見つける事が出来たのだ。
きっとここからドラゴンの里に向かったのだろう。
「ここを通ったようですね。
舞殿は私のそばから離れないでくださいね。」
ユークレイスはいつもと同じ調子で、洞窟の中を覗きながら淡々と話したのだ。
私はユークレイスの言う通りに、すぐ後ろを隠れるようについて行った。
暗い中を少しずつ進むと、明るい光が前方に見えてきたのだ。
そして暗い洞窟を出ると、そこには広大な草原が広がっていたのだ。
ここがかつてのドラゴンの里と思われるのだが、人が生活していた雰囲気を全く感じる事は出来なかった。
アクアが住んでいた頃から何百年も経っているので、仕方ないのかもしれない。
ただただ、穏やかな風が吹いているだけの何もない場所だったのだ。
「どうも右手の方にブラック様達は進んだようですね。」
ユークレイスの言う通り、ブラックの気配を追って進むと、
目前に洞窟らしき物が見えてきたのだ。
歩いて行く間に、ドラゴンの里についてユークレイスが教えてくれたのだ。
ドラゴンが復活しそうになると再度封印をするらしいのだが、そのためには封印の石の移し替えの儀式が必要とのことなのだ。
もちろん、それが出来るのはドラゴンの民だけなのだと。
アクア達はきっとその石を取りに行っているのではないかと話してくれたのだ。
そして、洞窟に近づくと一人の人物が静かにこちらを向いて立っていたのだ。
よく見るとそれはシウン大将であった。
私達に気付くと、兵士らしい挨拶をして声をかけてきたのだ。
「舞殿とユークレイス殿ではないですか?
こちらに来ていたのですね。
ブラック様達が洞窟に入って行かれたのですが、しばらく経っても出てこないのですよ。
ここで待機するように言われた手前、どうするべきか思案しておりました。」
「そうなのですね・・・しかしおかしいですね。
ここで気配がとぎれています。」
ユークレイスはその洞窟の入り口を眺めながら、不思議に感じたようなのだ。
見たところ普通の洞窟なのだが、その先にはブラック達の気配が感じられないと言うのだ。
とりあえず、みんなで中に入ることにしたのだが、私がその洞窟の中を覗いたとき、何故か不安な気持ちにさせられたのだ。
もちろん、中がどうなっているかわからない不安もあるが、そうではなく嫌な雰囲気を全身で感じたのだ。
そう言えば、森が黒い影に侵食されていた時も同じ気持ちになったのを思い出したのだ。
その時である。
私の胸元があたたかくなり、優しく光ったのだ。
急いで、前に進もうとするユークレイスを止めたのだ。
「待って、まだ行かない方がいいかも!」
私はブラックから貰ったペンダントと同じように、首から下げていた小さな袋があるのだが、その中が優しく光っていたのだ。
その中の光る種を手のひらに置くと、小さくなってはいるが、精霊が現れたのだ。
私が困ったり、呼んでもいないのに、精霊の方から出てくるには、何か問題があるのではと思った。
「どうしたの?
あなたから出てくるなんて。」
私は手のひらに立っている森の精霊に、顔を近づけて聞いたのだ。
「実は少し前から舞が心配で様子を伺っていたのです。
ちょっと、気になる雰囲気を感じたので・・・」
精霊は少し照れたような顔をしたのだ。
隠れて見ていたようなものなので、すこしきまりが悪かったようだ。
「そうなのね。
でも来てもらって正解かも。
この洞窟が何だか嫌な感じがするの。
ブラック達の気配はここで途切れているらしいんだけど。」
精霊は私の手のひらから、お気に入りの居場所であるかの如く、私の白衣の胸ポケットに入って洞窟をじっと見たのだ。
「舞、この先は別の空間になっていますね。
私が作る空間によく似てる感じです。
この大地や岩の主人と言うべき者が作り出した空間だと思いますよ。」
なるほど、別の空間であるためにユークレイスでも気配を探れなかったわけなのだ。
しかし、そこに行かなければ石を持ち出す事が出来ないのだろう。
「実はこのような空間に入ると、作った者の支配下の領域になるので、ブラックがいくら強くても空間の支配者には逆らう事が出来ないのです。」
精霊の話を聞くとますます不安になって、私は顔をしかめたのだ。
そうなると、ブラック達がなかなか出てこないということは、石を簡単には持ち出せない状況という事なのだろう。
だが、私の心配をよそに、精霊は付け加えたのだ。
「あ、でも私は違います。
私はその領域でもちろん何もする事が出来ませんが、相手も私に何かを行使する事は出来ません。
同じような自然から生み出された存在なので・・・
だから私の加護下にあれば、舞達も中に入って問題ないはずですよ。」
なるほど、精霊の影響下にあれば、心配ないと言う事らしい。
私はとても安心したのだ。
「私達はブラック達が心配だから、中に入りたいの。
お願い出来る?」
精霊は少し考えて私を見たのだ。
「舞、種をあと2粒持っていますよね。
念のため、二人に一つずつ持たせてください。」
私は頷いて、首から下げている袋の中の種をシウン大将とユークレイスに渡したのだ。
そして私達は、別の空間である洞窟の中に足を踏み入れることにしたのだ。
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