第7話 森への転移
ブラック達が岩山の洞窟に行く少し前の事である。
舞は自分の部屋で光の鉱石の粉末を頭上に投げ、光る霧が消えるのを待った。
すると見慣れた魔人の森の、大木のある広場に転移出来ていたのだ。
足元には舞の家にあった魔法陣の布よりも、10倍くらい大きな魔法陣が記されていたのだ。
それは地面に書かれていると言うわけでなく、精霊と同じような優しい光で複雑な魔法陣のラインや文字が作られているように見えたのだ。
興味深くその魔法陣を見ていると、いつの間にか目の前に精霊が立っていたのだ。
どうも青年の姿になった精霊を見ると、私は少し緊張してしまうのだ。
中身は今までと同じ精霊なのだが、見た目は透き通るような綺麗な顔立ちの青年であったのだ。
「舞、無事来れたのですね。
良かった。」
「ええ、本当にありがとう。
それにしても、あなたにはいつも驚かされるわ。
こんなすごい魔法陣を作る事が出来るなんて。
いつも助けられてばかりね。」
私がそう言うと、精霊は照れたように笑ったのだ。
その顔を見ると少年の姿の時と同じだったので、私はとても安心したのだ。
とにかく、私はカクの家に行く事を考えた。
転移出来なかった理由が一体何なのか、気になったのだ。
ブラックに会うことも考えたが、カク達が無事なのを確認してからにしようと思ったのだ。
そんな私を心配してか、精霊はまた一粒種をくれたのだ。
これで合計3粒になったのだ。
「何かあったら、すぐに私を呼んでください。
無茶はしてはダメですよ。」
精霊は私に種を渡すと、優しい光で包んでくれたのだ。
以前は私の方が、小さかった精霊の頭を撫でたり抱き締めたりしていたが、今は私よりも大きくなっていたので、立場が変わってしまっていたのだ。
私は森を抜け、転移の洞窟に急いだ。
洞窟に着くと、精霊が言っていたように人間の住む世界との行き来をする人達が以前より活発であったのだ。
その中に知っている顔をあった。
向こうも私に気付くと声をかけてきたのだ。
「これは舞殿では無いですか?
いつからこちらに。
今ブラック様は人間の王に会いに行っておりますよ。
今回は色々大変ですな・・・」
そこではネフライトがテキパキと洞窟を行き交う人たちに指示を出していたのだ。
私は人間の世界で何かあったのか聞いてみたのだ。
すると、どうやら人間の世界で火山の噴火があったと言うのだ。
そのため、人間の生活に支障が出ていることから、こちらの世界から必要な物をブラックの指示のもと送っている状況とのことなのだ。
そんな火山などあっただろうか?
私には思い当たる山がなかった。
もしかしたらその影響でカク達と連絡が取れないのかもと思い、急ぎカクのお屋敷に向かおうとした。
するとネフライトは今は安全とは言えない状況なので、ちょうど人間の城に向かうユークレイスと一緒に行くようにと言ってくれたのだ。
「舞殿、お久しぶりです。」
青い鋭い目を持つユークレイスが声をかけてきたのだ。
普段から冷静であまり笑ったところを見た事が無かったので、私はとても緊張したのだ。
「はい、お願いします。」
私はそう言って、急いでユークレイスの後に洞窟のトンネルに進んだ。
私は何を話して良いか分からず、黙って後をついて行ったのだ。
するとユークレイスが話し出したのだ。
「舞殿は人間の世界から来たのでは無いのですか?
すでに、この状況を知っているかと思いましたが。」
どうも私とネフライトの会話を聞いていたようで、私が噴火の事に驚いているのが疑問だったようだ。
私は今回はいつものように転移出来なかった事を話した。
そして、もしかしたらこちらの世界に何かあったのかと思い心配したこと。
また、森の精霊の助けでこの世界に来れたことを話したのだ。
「なるほど。
確かに噴火の影響があったかもしれませんね。
ではカク殿のお屋敷までご一緒しますよ。」
話している間に、ちょうど転移の洞窟の出口に近づき、明るい光が差し込むのが見えてきたのだ。
「さあ、掴まってください。」
洞窟を抜け、通行管理人に挨拶をすると、私に腕に掴まるようにうながしたのだ。
私は気恥ずかしくて少しだけ腕に手をかけたら、笑いながら話したのだ。
「ブラック様でなくてすみません。
でも、ちゃんと送り届けますから安心してください。」
この人も笑うんだと、何だか驚いてしまったのだ。
私はユークレイスが笑うのを初めて見た。
普段の鋭い顔つきと違って、とても優しい笑顔だったのだ。
余計なお世話だと思うが、普段から笑えば良いのにと思ったのだ。
私はユークレイスにしっかり掴まると、一瞬でカクのお屋敷の前に着いた。
そこは私の想像よりもひどい状況だったのだ。
噴石の影響で、薬草庫はほぼ倒壊しており、外からでは分からないが中の薬草などもほとんど燃えてしまっているのでは無いかと思えたのだ。
また薬草が植えられていた花壇の草木も、噴石や灰の影響でかなり痛んだ状態だったのだ。
お屋敷自体は立派な作りだったので大きな問題は無かったが、ところどころ噴石が落ちてきた影響で陥没している場所もあったのだ。
カクやヨクが怪我をしていないかが心配で、急いでお屋敷の扉をノックしたのだ。
すると、少し痩こけた暗い顔でカクが扉を開けたのだ。
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