第3話 ドラゴンの民

 ブラックはアクアとスピネルと共に、人間の王に会いに行くため、異世界に繋がるトンネルを歩いていた。


「ブラック、もしかしたらあれが復活するのだろうか・・・」


 歩きながらアクアはブラックに問いかけていた。

 普段と違って、とても真剣な顔つきであった。


「まだわかりませんが、その可能性が高いですね。

 今は地震や噴石なども無く落ち着いているようですが・・・」


「ちゃんと封印されていれば、1000年は眠りについているはずなのに・・・

 やはり、あの時上手くいかなかったのだろうな・・・

 正直、私の仲間達が代々行ってきたことを自分ができるか、自信が無いのだ。

 あの時の長老達がしくじったから、今生き残っているのが自分だけなのだぞ・・・

 自分一人の力で上手く出来るか・・・」


 アクアは悔しそうに話したのだ。


「まあ、まだわからないですが、アクアもあれから何百年も経っているのですから。

 あの時の子供と同じではないでしょう?」


 ブラックがアクアの顔を覗き込みながら、言ったのだ。


「当たり前だ。

 あの時とは違うのだ。」

 

 そんな態度を見てスピネルは少し安心したのだ。

 ブラックから今回の話を聞いて、アクアはずっと塞ぎ込んでいたからだ。

 

 少年のような姿ではあるが、アクアはブラックと会ってからすでに700年以上経っているのだ。

 ただ、ハナの薬により核のみで眠っていた時間が500年ほどあるので、実際は数100年と言うところだろう。

 

 ドラゴンの民が住んでいた場所、あの岩山でアクアはブラックに助けられたのだ。

 あの時ブラックが現れなかったら、アクアも他の仲間達と運命を共にしていたのだ。


 ドラゴンの民とは、もちろんドラゴンの血を引くものでもあるが、ドラゴンを鎮める民でもあったのだ。

 実はあの岩山の中には太古から存在するドラゴンが、何千年も前から1体眠っているのだ。

 それはアクアよりも数倍大きく、攻撃的で危険な生き物であった。

 アクアの先祖とは違い魔物に近いものであり、昔からそのドラゴンは倒せるような存在ではなかった。


 しかし、ドラゴンの民のみが鎮める事ができ、1000年もの眠りにつかせる事が出来たのだ。

 そして、また目覚めそうな時に眠りにつかせる事で、平穏な生活を送る事が出来ていたのだ。

 

 それが、700年前のことである。

 今回と同じく、大きな地震が起こり噴火したように噴石が辺りに降ってきたのだ。

 これはドラゴンが少しずつ覚醒しつつあるサインであった。

 本来ならドラゴンの民の長老達で、また眠りにつかせる儀式をするのだが、ある問題が起こりドラゴンが目覚めてしまったのだ。


 その結果、里全体が炎に包まれ殆どの民は亡くなり、残った数人でドラゴンを封印したのだが、皆力尽きてしまったのだ。

 完全に目覚めたドラゴンを封印して眠らせるには、かなりの魔力や生命力が必要であったのだ。

 だから今回も完全に目覚める前にドラゴンを鎮め、再度封印する必要があったのだ。


 それが出来るのは、アクアしかいなかったのだ。


 三人は洞窟を抜けると、一瞬でサイレイ国の城の前まで移動した。

 城の門まで行くとすぐにシウン大将が出迎えてくれたのだ。


「お待ちしておりました。

 皆さまこちらに。」


 丁寧に挨拶すると、三人を王のいる部屋まで案内したのだ。

 大きな扉をノックして入ると、オウギ王が待っていたのだ。


「お久しぶりですね。

 この度は大変な状況となりましたね。」


 ブラックがそう言うと、オウギ王は立ち上がって三人を迎えたのだ。


「よくぞ、来ていただけました。

 魔人の王よ。」


 オウギ王の横にはヨクも控えており、一緒に話を伺う事にしたのだ。

 

 ブラックはあの岩山やドラゴンについて話した。

 そして、これからそのドラゴンを眠らせる為に向かわなければいけない事を伝えたのだ。

 オウギ王達は初めて聞く話であり、驚くことばかりであった。

 もしもドラゴンが目覚める事があれば、この国が消滅するくらい危険である事を悟ったのだ。


「すでに魔人の国が異世界にあるのに、こちらの世界を気遣っていただきありがたい。

 大変危険な事に思いますが、よろしかったのでしょうか?」


 オウギ王が申し訳なさそうに話すとアクアが口を挟んだ。


「それはドラゴンの民である私にしか出来ない事なのだ。

 まあ、心配する事はないぞ。」


 さっきのブラックとの会話とは打って変わって、自信たっぷりの態度で話したのだ。

 ブラックもスピネルもいつものアクア節が出たと思ったが、前向きな発言に少しホッとしたのだ。

 アクアの背負っている責任を考えると、塞ぎ込んでいたのも仕方ない事なのだ。


「おお、さすがでございます。

 では、足手まといにならなければ、シウンを一緒に連れて行ってもらえるでしょうか?

 こちらとしても、岩山がどういう状況か出来れば知りたいのですが。」


 ブラックは少し考えて答えた。


「では途中まででしたら。

 シウン殿でしたら、問題ないでしょう。

 ただ、私の指示に従っていただくのが条件ですが。」


「もちろんでございます。

 では、シウン、魔人の王の指示に従うのだぞ。」


 そう言うと、オウギ王はシウン大将に準備をするように指示したのだ。


 そして話が一段落したところで、ヨクがブラックに話したのだ。


「ブラック様、実はお話ししたい事が・・・

 今回の噴石の影響で、舞との繋がりが途絶えております。

 転移の魔法陣が焼失し、手紙などのやりとりが出来た扉も現在確認出来ない状況です。」


 ヨクは心苦しそうに伝えたのだ。


「ああ、そうなのですね・・・わかりました。

 今は・・・岩山の事を考えましょう。」


 ブラックは冷静に答えたが、その話を聞き心の中はひどく狼狽えていたのだ。

 こんな形で舞と会うことが出来なくなるとは、思ってもいなかったからなのだ。


 

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