第8話 エリアマスター

 スライムと戦い続け、奥へと進む俺たち。

 戦っている間におじさんもそれなりに強くなってきたのか、苦戦しながらもスライムを一人で倒せるようになっていた。


「はーはーはー……ははは! 正義は勝つ!」


 一人でスライムを倒し、腰に手を当て高らかに勝利を宣言するおじさん。

 そんな大げさに言うほどのことじゃないけど、まぁいいだろう。

 

 ヒーローのように戦える喜び。

 その気持ちはよく分かるから。


「勝ったのはいいけどさ。でも、ここってスライム以外出現しないのかな?」

「んん? ああ。一階層はスライムしか出ないらしいぞ。あ、でもエリアマスタ】っていうモンスターがいるらしいけどな」

「エリアマスター?」

「ま、一言で言えばボスってことだ!」

「ボスか……」


 ボスってことは、当然強いってことだよな。

 そんなのと戦って、俺たちは勝てるのだろうか?

 不安が胸に広がっていく。

 まだまだ俺たちがボスと戦うのは不可能だろう。


「ちなみに、ボスは複数人で戦うのが基本。俺ら二人でどうにかなるような相手じゃないぞ。だから一人で突っ込むなよ」

「突っ込まないよ。おじさんこそ、一人で突っ込まないでよ」

「おじさん言うな! 俺が一人で突っ込むなんて、そんな勇気あると思うか!? 俺はビビりでヘタレなんだぞ!」

「そうだよね……そうだったよね」


 自信満々で言ってるけど、自慢するようなことじゃないからね。


 スライムは依然として湧き出て来る。

 俺はスライムを倒しながら、おじさんのフォローをしていく。

 自分で倒す時は一撃で。

 おじさんの敵は手加減しながら。


「でもさ、こんな風に誰かの手助けがあれば強くなることもできたのなら、もっと早く来ればよかったよ」

「何言ってるんだ。誰が俺たちの面倒見てくれるんだよ? 恋人も親友もいない俺たちのフォローを誰が好き好んでする?」

「……しないね」


 寂しくなるからそんなことを言わないでほしい。

 友人も少ないし、恋人なんていたこともない。

 確かに俺たちを手助けしてくれる人なんていないだろう。


「だから、今が最速最善なんだよ。【エーテルマスター】を手に入れたこのタイミング、そして俺とお前だからこうしてダンジョンに潜れることができたんだ」

「そう言われたらなんだか、運命みたいに感じるよ」

「そう! これは運命! 最強のヒーローになるのがお前の運命なんだよ! そして俺はそんな最強を援護する最強助手ってわけだ!」

「最強助手って……そんな肩書でいい――」


 それは突然のこと。 

 話しながら角を曲がると、目の前に大きな扉が見えた。

 その扉の向こう側で、激しい音がする。

 誰かが戦っているのだろうか……

 スライムなんかと戦ってあんな音はしない。

 となればあれは……


「……エリアマスターだな。あの扉の先がボスの居場所みたいだぜ」

「あそこが……で、どうする?」

「決まってるだろ……撤退だ!」


 おじさんは踵を返し、走り去る準備を整える。

 ま、二人では無理だよね。

 俺はおじさんと共にその場から立ち去ろうとした。


 が、背後から女性の悲鳴が聞こえ来る。


「……戦ってるのは女の人?」

「……おい。まさか助けに行くなんて言わないだろうな?」

「…………」


 声から察するに、戦いを有利に進めているようには思えない。

 ピンチなんだ。

 佳境に立たされているんだ。

 助けを求めているんだ。


 なら――助けに行かないと。


 俺は走り出す。

 扉の向こう側へ。


「タク!」

「ここで助けないと、本物のヒーローにはなれない! それに目の前で困っている人を助けるのは、ヒーロー以前の問題だろ?」

「……そりゃそうだ! ああ、もう! 俺も行く! でも俺は手助けなんてできないぞ!」

「ありがとう、おじさん!」


 扉まで駆けつけた俺は、持てる力で扉を押した。 

 これだけ大きな扉……開くか?

 そんな心配をするが――しかしそれは簡単に開く。


「どうやら、自動扉みたいなものみたいだな」

「……本当だ」


 扉はひとりでに開き始め、大きな口を開ける。


「だ、誰!?」


 その先では、緑のラインが入ったピチピチのラバースーツを着た女性が三人、大きなモンスターと戦っていた。

 いや、戦っていたというよりは逃げ惑っている。

 そう表現するほうが正しいだろう。


 女の人三人は、全員がヘルメットをかぶっており顔は見えない。

 だが怯えている様子は手に取るように分かる。


「た、助けて! お願い!」


 その中の一人が、俺たちの背後まで駆けて来て、そのまま扉の向こう側へ逃げようとする。

 しかし、扉は意思を持っているかのように、その前に勢いよく閉まってしまう。


「……閉じ込められた……閉じ込められちまったよ、コノヤロー!! どうしてくれんだー!!!」


 おじさんは悲鳴じみた声で叫び、大パニック状態。

 俺も目の前にいる大きなモンスターを見上げ、心臓をバクバクといわせていた。


 こんな化け物……さすがに勝てないだろ……

 不安は募るばかり。 

 どうやってこれを切り抜ける?

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