第6話 ダンジョン

 ダンジョン内は、まさに迷宮だった。

 広々とした空間から前方左右に伸びる道。

 壁や天井、床の作りは薄緑をした鉄のような素材。

 足で床を叩くと金属音が響く。

 匂いは特にない。

 だが……目の前に敵がいる。


「スライムだな……モンスターだぞ、2号!」


 ネットなどで観覧できるモンスター図鑑という物がある。

 そしてそれに掲載されていたモンスターのうちの一匹、スライムだ。


 スライムは緑色の液体のような固体のような体で、動く度にプルンプルン動く。

 まるで動くプリンでも見ている気分。

 可愛らしい目と口がついていて、見た目に騙されるところだがあれもあれでれっきとしたモンスターだ。

 

 だがモンスターの中では最弱のはず。

 力の無い者からすれば脅威ではあるが……俺には【エーテルマスター】がある。

 とは言ってもこれが初陣。

 本当に通用するのか疑問でもあるし不安でもある。


「……本当に戦えるのかな、俺?」

「戦えないわけないだろ! お前はもう最強のヒーローになれることを約束されたようなもんだぞ! 大学を裏口入門するようなもんだ!」

「裏口入門って……それじゃ実力不足みたいに聞こえるじゃないか」

「実力は不足してない! むしろ過多だ! 過多過多だ!」


 何を根拠に言ってるんだ、おじさんは……

 しかし俺は深呼吸し、心を落ち着かせる。


 根拠はないようだけど、おじさんがそう言うのが根拠だ。

 おじさんはメチャクチャな人だけど間違ったことは言わない。

 この人がやれると言えばやれるんだ。

 俺はただ、おじさんを信じるだけ。


「行って来るよ」

「おう! 世界の平和はお前に任せた!」

「そんな世界の終わりみたいな言い方しないで! あんなの一匹倒したぐらいで世界は変わらないよ」

「でも、お前と俺の世界は変わる」

「確かに……それはそうだ」


 俺はおじさんに頷き、そしてスライムに向かって歩き出す。


 相手は最弱。

 並みの人間なら敵わない相手だろうが、でも俺には【エーテルマスター】がある。

 そしておじさんができると言っているんだ。

 おじさんを信じろ。

 自分を信じろ。


 スライムを倒せるだけの力がここにあるはずだ。


「はぁあああ!」


 敵を倒せるように念じながら拳を振るう。

 スライムの動きはそれなり素早いが、しかし、反応できない速度ではない。


 俺の拳はスライムの肉体を捉え、そして敵の体は四散する。


「…………」


 あっけない勝利に俺とおじさんは唖然とする。

 最初の戦いだし、もう少し苦戦するかなと思っていたけれど、でも楽勝も楽勝だった。

 まさか一撃で終わるとは。


「ほ、ほらな! 俺の言った通りだろ! お前は強い! 凄いスキルを手に入れたんだからな!」

「本当だ……でもまさか、ここまで強いなんて思ってもみなかったよ」


 威力は想像以上。

 スライムの強さは分からないが、一撃で倒せるということが分かった。


「お、新たにスライム発見! この勢いで今度は俺が倒してやる! やってやるぜ、コノヤロー!」


 俺がスライムを倒したことに興奮していたおじさんは、現れたスライムに向かって突撃を開始する。

 が、スライムの急な突進に俺の後方まで吹き飛ばされていた。


「ぐえっ……ダメだ、タク。お前が倒してくれ」

「あ、ああ。分かったよ」


 おじさんでは全く歯が立たない。

 俺とおじさんの【エーテル値】はお互いにFランク相当。

 てことは、やはり普通の人じゃスライムに勝てないんだ。


 俺はこのスライムも、蹴りの一撃で倒してしまう。

 おじさんはスライムが倒れたのを確認し、スッと起き上がる。


「ふん。雑魚が」


 よく見ると、おじさんの足はガタガタ震えているようだった。

 怖かったんだな」


「生まれたての小鹿みたいになってるけど、おじさん」

「おじさん言うな! 小鹿もやめろ! 俺はビビってない! ビビッてなんかないんだからね!」

「でもおじさんも、俺のことタクって呼んでたじゃないか」

「……そうだったな」


 おじさんはため息をつき、そして携帯を取り出し何かを確認する。


「二号。お前も確認してみろよ、【ギアプログラム】」

「え? ああ……」


 俺はおじさんに言われるがままに、【ギアプログラム】を立ち上げる。

 すると何やら【ステータス】という項目が追加されており、俺はそれをタップした。


 ------------


 ジャスティスイグナイト2号

 エーテル 4 力 5 

 防御 4 体力 5 

 素早さ 6 魔力 3


 アーム 

 パワー 0 ガード 0

 スピード 0 マジック 0


 アーツ

 --


 スキル 

 エーテルマスター


 ------------



「へー、自分のステータスが分るんだ……って、【エーテル値】が上昇してる?」


 以前測った時は3だったはずなのに、今は4になっている。

 どういうことだ?


「やっぱりそうなんだな。うん。実はな、モンスターを倒すと、モンスターは体内に宿す【エーテル】を放出するらしいんだ。そして少しだけだが、スライムを倒した2号はそれを吸収したってわけだ」

「そうなんだ……敵を倒せば成長できるってわけか。なるほどな。後はレベルなんてあれば分かりやすかったのにね」

「確かに! ゲームみたいで楽しそうだよな! でも、他のステータスも上昇していくはずだし、それだけでも十分だろ」

「そうだね。うん。これだけでも十分楽しそうだ」


 目の前に映し出されたステータス。

 これがどこまで上昇するのか、俺はそれが楽しみで仕方がなかった。

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