無能のモブキャラでしかなかった俺だが、最強チートスキル【エーテルマスター】を手に入れ無双人生が始まった! 

大田 明

第1話 モブ

 モブ。

 それは有象無象の生物。

 特に目立つわけでもなく、何か秀でた物があるわけでもない。

 目立たない存在であり、そこにいるだけの存在であり、輝きを放つ者の陰に埋もれる存在。


 俺、臨海拓斗のぞみたくともそうだ。

 いわゆるモブキャラクターと呼ばれる存在に分類しても差し支えはないと思う。

 目立った能力も、神から授かった能力も、覚醒して手に入れた能力もない。

 普通にその辺にいる、高校生Aだ。

 

 学食ではワイワイガヤガヤ言うだけ。

 素直に授業を受けて、たまに教師に指名されて問題に答えて。

 ゾロゾロ皆と同じように下校する。

 

 きっとそこにいてもいなくても、世界は何も変わらない。

 そんなちっぽけな存在なんだ、俺は。


 そんな存在だったはずなのに……

 今の俺には、とんでもないことが起きていた。


『さあ今週も始まりました! 最強のウォーリアを決める、【バトルウォーリア】!! 皆待ってたかな? 待ってたよな? よーし。なら今日も最強の男を紹介するぜ!』


 ハイテンションのアナウンスが聞こえてくる。

 俺はスタッフに従い、廊下を歩き闘技場へと移動していた。


 心臓はバクバクいっている。

 いつまで経っても、この緊張には慣れない。 

 興奮し、緊張する俺。

 しかし仮面をかぶっているのでそんな表情を見られることはない。


『【バトルウォーリア】ランキングナンバー1! 【ヒーローオブヒーロズ】の称号を持つ男――『ジャスティスイグナイト二号』!!』


 ピッタリとしたレーシングスーツのような全身姿。

 色は白をベースにしており、素材は金属のように硬く見えるが、柔軟性がある。

 だが防護性能は高く、そして何より動きやすい。

 それと同じ素材を使った仮面。

 見た目は完全にヒーローそのもの。


 そりゃそうだ。

 そもそもがヒーローをモチーフにして作った装備なんだから。


 とてつもなく広い空間に出ると、爆発するような歓声が上がる。

 戦場である闘技場。

 それを囲む二階席から上は、全てが観客席となっている。

 他にもこれを生放送で見ている人たちの歓声もスピーカーから響いており、さらには大型スクリーンに応援や感想のコメントが流れ続けていた。

 スクリーンに俺の姿が映し出されているが、文字の多さに何も見えない状態。


 どれだけの人がこれを見ているんだよ……

 ついこの間までは、こんな場所にいるような人間じゃなかったのに。

 まさかこんなことになるなんて……


 いまだに自分がこんなところにいるなんて信じられない。

 だって俺はただのモブで、最強からは程遠い無能の存在だったはずなのに。


 何故ここまで上り詰めることとなったのかと言うと、それは半年ほど前まで話は遡る。



 ◆◆◆◆◆◆◆



「おお! 君島が来たぞ!」

「君島! 昨日の動画見たよ! 凄い活躍だったな!」

「『ワンダーナイツ』……視聴回数も鰻登り。人気配信者まっしぐらだな!」


 二年B組の教室。

 一人の男を大勢の男女が囲んでいた。

 俺は遠くからそんな彼を眺めるその他大勢の一人。


 彼は君島大吾きみしまだいご

 【ウォーリア】として戦っている、動画配信者だ。

 金髪に染めた髪を逆立て、自信に溢れた表情。

 彼こそ選ばれし者。

 物語なら英雄。

 ゲームなんかでは勇者に抜擢されるような者だ。


 教室の端から目を細めて彼を見る。

 皆に囲まれて輝きを放つ、モブならざる者。

 何も持たない俺と違い、大きな力を持っている。


 この世界には今から百年ほど前、異次元から魔族と呼ばれる化け物たちがやって来たと言われている。 

 そしてその魔族を倒すために同じ次元から来た連中もいた。

 それは異世界人。

 彼らは【フォーザス】という世界からやってきた。


 これは後から知ることだが、魔族は【フォーザス】の戦士たちと戦うために決戦の地をこの地球に選んだということだ。

 なんて迷惑な話だ。


 その戦いは長く続いた。

 だが戦いは【フォーザス】が勝利を納め、魔族はこの世界からいなくなった。

 しかし、魔族がこの世界に創った【ダンジョン】はそのまま存在を残している。


 【ダンジョン】とは、どこまで続いているのかも分からない深い迷宮。

 魔族こそいなくなったものの、いまだそこではモンスターが徘徊している。

 そのモンスターは倒しても倒してもダンジョンに出現するらしく、それもある一定数を倒さなければ、モンスターは地上へと出て来てしまう。


 そのため、この世界では嫌でもモンスターと戦わなければいけない。

 そしてそのモンスターと戦う戦士が、【ウォーリア】。

 

 君島は、そんなモンスターと戦う【ウォーリア】の一人なのだ。

 

 【ウォーリア】とは誰でもなれるが誰でもできるわけではない職業。

 バイト感覚でやることだってできる。

 でも、モンスターに勝てるかどうかは別の話。

 モンスターは、選ばれた者にしか倒せないのだ。

 普通の人間では勝つことなど不可能。

 

 できることなら俺だってモンスターに勝ちたい。

 でも無理なんだ。

 何の力も持たないただのモブである俺では、【ウォーリア】としてモンスターと戦うなんて夢のまた夢。

 叶わない儚過ぎる夢なのだ。


 だから俺は英雄である彼らを眺めるだけ。

 それが自分に定められた人生なのだ。

 勇者をたたえるため存在する、モブでしかないのだ。

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