第239話 最後の門番

「やっぱり風見氏ならここに来ると思ったでござる」


「お前は‥‥‥織部!? 何でこんな所にいるんだよ!?」


「拙者は茅野結衣親衛隊の隊長をしているんでござるよ。結衣様がいる所、拙者がいてもおかしくないのでござる」


「なるほど。そういえばそうだったな」



 他の親衛隊と違って大人しいので忘れていたけど、織部は元々結衣の親衛隊隊長をしていた。

 だから彼女の事が心配でここにいるのだろう。しかも今葉月が結衣に告白しようとしている真っ最中。それを見守る道理はないはずだ。



「それよりも織部、結衣はどこにいるんだ?」


「結衣様はこの先の屋上にいるでござる」


「そうか。教えてくれてありがとう」



 織部の横を通ろうとするが、彼は俺の事を通してくれない。

 それどころか俺がこの先に行くのを邪魔してくる。



「織部、何をするんだ? ここを通してくれ」


「風見氏には悪いと思いますが、今ここを通すわけにはいかないでござる」


「何でだよ!? お前等親衛隊は葉月が結衣に告白するのを黙って見てていいのか!!」


「それが結衣様の幸せなら、我々は甘んじて受け入れるでござる」


「前は葉月が結衣に近づいたらお仕置きするとか言ってなかったか?」


「それは小谷松氏が他の女性と浮ついた気持ちでいたからでござる。これを期に結衣様一筋になるなら、我々が関与することはありません」



 さすがは茅野結衣親衛隊だ。他の親衛隊とはわけが違う。

 もし葉月が誰かに告白しようとしたら、他の親衛隊は全力で止めるだろう。

 だけど織部達は違う。推しの女の子が幸せになるためなら、それを全力で応援しているんだ。男の中の男とはこういう人達の事を指すのだと思う。



「お前達の所は他の親衛隊と違って変わった考えなんだな」


「それが我々の信念なので」



 困ったな。意地でも織部は俺を通さないつもりだ。

 力で押しとおることも考えたが、他の親衛隊まで出てきたらやりようがない。



「(どうやって織部を説得しよう?)」



 今の織部には何を言っても一蹴されてしまう。

 このままでは当分結衣と会えそうにない。どうやって織部を説得しようか頭を抱えてしまう。



「織部は葉月と結衣が付き合ってもいいのか?」


「拙者は別に構わないでござる」


「あれだけ葉月の事を毛嫌いしていたのに? 本当にそれでいいのか?」


「確かに昔の小谷松氏は色々な女性にフラフラしていましたが、これを機に1人の女性だけを愛すると誓うならば我々は口を出しません」



 駄目だ。今の織部は何を言われても聞く耳を持たない。

 この堅物を説得するにはどうすればいいだろう。説得する材料が乏しくて困る。



「織部、よく考えてくれ。結衣と葉月が付き合ったからって、紺野先輩達が諦めると思うか?」


「それは‥‥‥」


「今まであれだけ葉月に執着していたんだ。そう簡単に諦めるわけないだろう」


「でも、もしかしたら改心する可能性も‥‥‥」


「それは絶対にないと思う」


「何故そう断言できるんですか?」


「あの人達が俺の背中を押してくれたからだよ。純粋に俺の応援をしてくれたのかもしれないけど、自分の私利私欲も多少なりとも入ってると思う」



 本人達はどう思ってるかわからないけど、俺はそんな気がしている。

 たぶん葉月が結衣と付き合ったからといって、あの人達はアタックをするのをやめないだろう。

 むしろ葉月と結衣の邪魔をする可能性の方が高い。それによって教室が今まで以上にカオスな空間になるだろう。



「そういう風見氏こそ、結衣様の所に行って何をするつもりなのでござるか?」


「俺は結衣に告白するつもりだ」


「こっ、告白!? 風見氏が、結衣様に!?」


「そうだよ。何か悪いか?」


「悪くはないと思うのですが、小谷松氏だと相手が悪いですぞ」


「相手が悪くても構わない。ただ俺は自分の気持ちを言わないまま、この恋が終わるのが嫌なんだ」



 分が悪い戦いだということは俺だって重々承知だ。

 例え葉月と結衣が付き合う事になったとしても、自分の気持ちだけは結衣に知ってもらいたい。



「風見氏も成長したのでござるな」


「成長? 俺は何も変わってないよ」


「わかったでござる。その熱意に根負けしたでござる」


「そしたらこの先へ通してくれるんだな」


「はい」



 よし! なんとか織部を説得することに成功したぞ。

 あとは屋上に行って結衣と会うだけだ。葉月がいるのが問題だけど、それは後々何とかしよう



「これは朗報か悲報かわかりませんが、風見氏に1つお伝えしておきたいことがあります」


「なんだ?」


「この先の屋上には結衣様しかおりません」


「どういうことだ? 葉月はこの先にいるんじゃないか?」


「いえ、小谷松氏はもう屋上にはおりません。あとは風見氏の目で確かめてください」


「わかった」



 つまり葉月は結衣に告白を済ませたってことか。

 なのに結衣を1人残すなんて、どういう神経をしているんだ? 最後まで付き合ってやれよ。



「情報ありがとう、織部」


「いえ。風見氏も頑張って下さい」



 俺は織部と別れて屋上へと行く。階段を登り屋上へ続く扉を開けると、そこにはぼーーーっと外を眺めている結衣がいた。



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