第237話 敵の敵は味方
次の日の昼休み、いつものように俺は自分の机に弁当を広げる。
箸を持ちいざ弁当を食べようとした所で教室内の違和感に気づいた。
「なんだか今日は静かだな」
いつもだったらこの時間になると葉月達が俺の所に来るはずなのに。今日に限って誰もやってこない。
葉月だけでなく紺野先輩達の姿も見当たらないのが不気味だ。何だか嫌な予感がする。
「あれ? そういえば結衣もいないな」
「結衣先輩なら、さっき葉月先輩に呼び出されましたよ」
「星乃!? いきなり現れてびっくりさせるなよ!?」
「そんな悠長なことを言ってる場合ですか!! 葉月先輩が結衣先輩を呼び出したんですよ!! 風見先輩は何も感じないんですか!!」
「感じないも何も。葉月が結衣の事を呼びだしたんだろう。それだけ聞けば大体何をしようとしてるかわかるよ」
たぶん葉月は結衣に告白するのだろう。昨日俺は葉月の頼みを断ってしまったので、あいつが自分で考えて行動したに違いない。
「わかってるなら、何で風見先輩は行動しないんですか!! このままだと結衣先輩が葉月先輩に取られちゃいますよ!!」
「それならそれでしょうがないよ。諦めるしかない」
「風見先輩の結衣先輩の思いはそんなものだったんですか!! いくじなし!!」
「そんなこと言われたって、俺に出来ることなんてあるわけないだろう」
葉月が告白すると決めた以上、俺が無理矢理介入するわけにはいかない
もちろん俺も結衣の事が好きなので、応援するようなことはしない。だからといってあいつの告白を邪魔するのはまた違った話だ。
「あんたにだって出来ることならあるわよ」
「お前は‥‥‥久遠!?」
「あんたも葉月と一緒に告白すればいいじゃない」
「何言ってるんだよ!? 葉月と一緒に告白して、勝てるわけないじゃないか!?」
「勝てないって誰が決めたの?」
「えっ!?」
「確かに葉月が王子様だとしたら、風見なんてそのお付きの人よ。容姿なんて比べ物にならないぐらい天と地ほどの差があるわ」
「わかってるなら言うなよ。傷つくだろう」
「でもお付きの人を選ぶような、そんな奇特な趣味を持つ人だっているかもしれないじゃない。うじうじしている暇があったら、まず行動をしなさい」
「行動か」
久遠の言っている事は間違いない。だが俺は葉月の告白の邪魔をしても本当にいいのだろうか。
「悩んでいるあんたに1つアドバイスをしてあげる」
「アドバイス?」
「そうよ。何をするにしても行動しないと可能性は0%なの。それはわかるわよね?」
「そんなのわかってるよ」
「だけど行動すればどんなに成功率が低くても可能性はあるのよ。もちろん失敗する可能性の方が高いけどね」
「つまり久遠は俺にあたって砕けろって言いたいのか?」
「砕けるかは相手次第だけど。でも、もしかすると上手くいくかもしれないじゃない」
「他人事だな」
「他人事よ。でも、ウチだって葉月の事が好きなんだから、出来れば結衣とくっついてほしくないの」
「結局俺をけしかける理由はそれなんだな」
「当たり前でしょう。葉月と付き合うのはウチって決まってるんだから、ここで結衣と付き合ってほしくないの」
「阻止するって言っても葉月は結衣に告白するんだろう? お前の思い人が他の女の事が好きなのに、それでも葉月の事を好きでいられるのか?」
「もちろんよ。例え葉月が他の人と付き合ったとしても、最後に付き合うのがウチだったらいいの」
「愛が重いな」
「そこは一途な女の子って言ってほしいわ。それにもし葉月の告白が失敗したら、それに乗じてワンちゃんあるかもしれないじゃない」
「もしかして久遠の目的はそれなの?」
「まぁね。葉月の心にぽっかり空いた傷をウチが癒すの。そうすれば葉月も自分の側にこんないい女の子がいたって気づくかもしれないじゃない」
本当久遠のメンタルの強さには恐れ入る。葉月が失恋をするわずかな可能性にかけて、俺をけしかけようとしているのか。
「正直な話、俺が結衣に告白した所で2人が付き合う可能性の方が高いぞ」
「えぇ、もちろん知ってるわよ」
「勝算がなくても、久遠は俺が結衣に告白した方がいいと思うの?」
「当たり前でしょ。行動しないで後悔するよりも、行動して後悔した方がいいじゃない。その方が後味が悪くなくていいわ」
「確かにそうだな」
このまま葉月と結衣が付き合うのを指をくわえて見ているなら、俺は絶対に後悔するだろう。
たぶん2人が付き合ったことを表では喜びつつも、一生自分が彼女に告白しなかったことを悔やむに違いない。
「風見先輩!! 今が行動する時ですよ」
「そうよ!! ここで行動しないと後悔するわよ」
「2人の気持ちは十二分にわかったよ。ちょっとトイレに行ってくるから、それまで留守を頼む」
「全く、素直じゃないわね」
「その言葉、そっくりそのままお返しするよ」
そうと決まればさっさと行動しよう。
もしかしたらもう告白は終わっているかもしれないけど、それでも俺は結衣に自分の気持ちを伝えたい。
俺は席を立ち、教室の扉へ向かう。
「がんばって下さい!! 風見先輩!!」
「もし失敗したとしても、骨はちゃんと拾ってあげるからね」
エールなのかエールじゃないのかわからないような声が背中から聞こえる。
その励ましの言葉を一身に受け、俺は葉月と結衣を探しに向かった。
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