第223話 普段の生活

「ちょっと何でお母さんまでそこに座ってるの?」


「珍しく陽子が友達を連れて来たんだから、色々と話を聞きたいじゃない」


「えっ!?」


「学校の時の陽子は一体どう過ごしてるの? 陽子は学校の事何も話してくれないから、私達家族も娘が学校でどう過ごしているかわからないのよ」



 驚いた。どうやら紺野先輩は学校生活の事についてお母さんに話していないらしい。

 秘匿主義の紺野先輩らしいと言えばらしいけど、この話を振られた俺はどうすればいいだろう。



「紺野先輩の学校生活ですか? それはもちろん‥‥‥」


「う"っ"、う"ん"」



 あっ、まずい。これは紺野先輩が余計な事を言うなというサインだ。

 俺の事を見る彼女の目が物語っている。『余計な事を言ったらどうなるかわかっているでしょうね』と力強い眼で俺に訴えかけている。



「風見君。陽子が学校でどう過ごしてるか知りたいな。よければ私に教えてくれないかしら?」


「う~~~ん、そうですね‥‥‥」



 これは困った事になった。紺野先輩のお母さんに俺達の学校生活をどう伝えればいいだろう。

 たぶん紺野先輩は葉月の事を伏せて話せと言っているみたいだけど、そうなると紺野先輩の事をお母さんにどう伝えればいいかわからない。

 だって俺と紺野先輩なんて葉月以外の接点がないのだから、普段彼女が学校でどう過ごしているか詳しく知らないからだ。



「紺野先輩はですね‥‥‥俺にとっていい先輩ですよ」


「本当?」


「本当ですよ。一見傍若無人なのように見えて、ちゃんと周りに気を使う一面もあって良い先輩です」



 例えば今日こうやって俺の悩み相談にのってくれたことだってその一つに入るだろう。

 普段は葉月に対して周りが見えなくなっているけど、根本的に悪い人ではない。



「そう。それならよかったわ」


「何か心配事でもあるんですか?」


「この子、昔からちょっと恋に盲目な所があるから、悪い男に引っ掛からないか心配なのよ」


「あ~~~、そうなんですか」


「そうなの。ちょっと優しくされるとコロっと落ちちゃうようなチョロい所があるから、私達家族も心配してるのよ」



 なるほどな。その話には俺も同意する。

 今まで紺野先輩はミステリアスレディーと呼ばれてきたため、プライベートは何をしているかわからなかったけど、中身は普通の女の子と変わらないみたいだ。

 


「ちょっとお母さん!? 私はそんなにチョロくないわよ!?」


「そんなことないわよ。貴方って物事に感情移入しやすいじゃない」


「うっ!?」


「今は部屋に置いてないみたいだけど、昔から少女漫画とか好きだったし。そういうシチュエーションに憧れてたんじゃないの?」


「そっ、そんな事あるわけないわ!?」


「ならいいけど。最近陽子の様子が変だから心配なのよ」


「心配? どういうことですか?」


「高校に入ってから普段は作らないようなお弁当を作って持っていったり、週末はちょくちょく友達と出かけたりしてるのよ。昔はそんなことなかったのに」


「なるほどなるほど」


「中学時代はよく家の手伝いをしてくれたのに。友達が出来たのは嬉しいけど、ちょっと心配だったのよ」



 お母さんごめんなさい。たぶんそれは確実に俺や葉月のせいだろう。

 週末ちょくちょく遊びに出かけていたのはたぶん葉月と出かけていたんじゃないか?

 どうやら俺が知らぬ間に紺野先輩もやることはやっていたみたいだ。



「でも陽子の側に貴方のような人がいてくれて安心したわ」


「えっ!? 俺は何もしてませんけど?」


「何もしてくれなくても大丈夫よ。貴方のような人が陽子の友達なら、何かあった時絶対に手を差し伸べてくれるでしょう」


「はぁ?」


「風見君‥‥‥だっけ? これからも陽子の事をよろしくね」


「はっ、はい‥‥‥」


 なんだかわからないうちに紺野先輩の事を頼まれてしまった。

 頼まれた所で変わる事なんてないけど、自分の家の料理を振る舞ってくれるお母さんだ。その頼みを無下になんて出来ない。



「ちょっとお母さん!? 余計な事を言いすぎじゃないかしら?」


「これぐらい言っておかないと、貴方が何をやらかすかわからないでしょう」


「別に私はちゃんとした学校生活を送ってるわよ。そうよね、風見君?」


「まぁ‥‥‥そうですね」



 普通の人は親衛隊など作らないのだけれど、その話は置いておいた方がいいか。

 ここで余計な事を言っても後が怖いし、ここは黙っておいた方が無難だ。



「ねぇ、風見君。もっと陽子の学校生活の事を詳しく教えてくれないかしら? 普段どう過ごしているのかとかもっと知りたいのよ」


「えっ!?」


「風見君、貴方わかってるわよね?」



 2人の色気のある女性に挟まれ、俺は目が点になる。

 こんないいお母さんの前で嘘をつくわけにはいかないし、正直に話しても後々紺野先輩に何をされるかわからない。



 「「風見君!!」」


「ははははは‥‥‥」



 モデルの用な美人2人に挟まれた俺の口からは乾いた笑いしか出てこない。

 一旦落ち着くために俺は紺野先輩のお母さんが持ってきてくれた醤油ラーメンや炒飯を美味しく食べることにした。


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