第178話 遊びの誘い

「表彰状、風見俊介。貴方は当該大会において、優秀な成績を残しましたのでここに表します」



 教室に戻って来た俺は担任の先生に賞状を渡すように言われて渡すと、何故かわからないがクラスで表彰式が始まった。

 俺が先生から表彰状を渡されると周りが拍手をしてくれる。

 体育館の時は全く恥ずかしくなかったのに、教室のみんなの前で表彰状を渡されるのがものすごく恥ずかしかった。



「おめでとう、風見。県大会も頑張ってくれ」


「はい。ありがとうございます」



 担任の先生から表彰状をもらい俺は席に着く。

 席に着くと、そのままショートホームルームがすぐに始まった。



「今日は体育祭の後片付けだからこれで終わりだ。だが早く帰れるからといって、寄り道などせずに真っすぐ帰ること。いいな?」


『はい』


「それじゃあ日直は号令をしなさい」



 日直は担任の先生に言われ号令をする。

 帰りの挨拶が終わると、先生は教室を出て行ってしまった。



「俊介君」


「結衣、どうしたんだ?」


「優勝おめでとう。1位になるなんてすごいよ」


「ありがとな。だけど本番は県大会だから気が抜けないよ」


「そうなの?」


「あぁ、その大会に司が出てくるからな。今回は何とかして司に勝ちたいと思ってる」



 地区大会はあくまで通過点に過ぎない。本番は2週間後に始まる県大会である。

 そこで結果を出せば春のインターハイ予選で地区大会を免除されたり、上位3人に入れば地方大会へ出場することも出来る。

 だからなんとしても大会で上位には入りたい。



「はぁ」


「どうして優勝したのにそんなにため息をついているの?」


「1500mの結果はよかったんだけど、5000mの結果がよくなかったんだよ」


「そんなに悪かったの?」


「うん。これを見てもらえればわかってもらえると思う」



 何も言わず、俺は結衣に2枚の賞状を渡す。

 結衣は俺から賞状を受け取ると、2枚を見比べ始めた。



「こっちの1500mは1位って書いてあって、5000mの方は‥‥‥」


「5位だ」



 そう。俺は1500mではトップだったけど、5000mの方は5位になってしまった。

 これもスタートで転倒したことが大きな原因だけど、それにしても順位が悪すぎた。

 本当ならもっといい順位で走れていたはずなので、あの転倒がなければもう少しいい順位でゴールしていたかもしれない。



「1500mに比べて、5000mはぱっとしない順位だったんだよ」


「でも、5位もいい順位だと思うよ!! だって大勢の人達がいる中で取った順位だから」


「ありがとうな、結衣。俺の事を気遣ってくれて」



 俺としてはこの順位に納得いってない。調整ミスだったとしても、もっといい順位を取れたと思っている。



「何々? 風見と茅野さんは何を話してるの?」


「委員長!? 何しに来たんだよ?」


「風見の事をねぎらいに来たのよ。あんた大会で1位を取るなんてやるじゃない!!」


「もう一つの種目は負けたけどな」


「それでも2種目とも県大会に行けたんでしょ?」


「まぁな。危なかったけど、両方の種目で県大会に行けたよ」


「だったら胸を張りなさい!! そんな事出来る人は中々いないわよ!!」



 珍しい、委員長が俺の事を励ますなんて。

 普段はぶっちょうずらなあの堅物の委員長が笑顔でこんなことをするとは思わなかった。



「もしかして委員長は俺の事をねぎらいにきたの?」


「用件はそれだけじゃないわよ。風見だけじゃなくて、茅野さんにも話があったんだ」


「私にも話があるの?」


「そうだよ。これから体育祭のお疲れ様会をするんだけどよかったらこない?」


「お疲れ様会か」


「もしかして練習でもあった?」


「いや、今日は顧問から練習を休めって言われてるから、完全休養日にするつもりだ」


「それなら決定だね。茅野さんももちろん行くでしょ?」


「俊介君が行くなら‥‥‥私も行く」


「なら決まりだね。この近くのファミレスで開催するから、一緒に行こう」


「あっ、あぁ。わかった」



 委員長の勢いに俺も押されてしまう。

 俺だけじゃない。隣にいる結衣もたじたじだ。



「そういえば、こういう時に真っ先にくる葉月はどうしたんだ?」


「小谷松君? 小谷松君なら、他の男子と話してるよ」


「葉月が‥‥‥他の男子と話してるだって!?」


「どうしたの? 小谷松君が他の男子と話していることがそんなに意外?」


「あぁ。あいつにもついに男友達が出来たと思うと感慨深くてな」



 いつも昼休みになると俺の事を呼んでいたあいつにもついに友達が出来たか。

 なんだか嬉しくて泣けてくる。



「だから最近小谷松君が俊介君に話しかけてこなくなったんだ」


「最近俺の周りが静かなのもそれが理由か」


「でも、それって少し薄情な気がする」


「いいんだよ。あいつがいるといつも騒ぎに巻き込まれるんだから。たまには静かに過ごさせてくれ」



 これもたまにの休みと思えばいいだろう。基本あいつがいると騒がしいから、こうして離れているぐらいの方がちょうどいい。



「それじゃあ私が案内するから行きましょう。もう何人かの人は向かって席を取ってるわ」


「わかった」



 こうして俺は委員長に連れられるまま、結衣と一緒にファミレスへと向かった。



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