第158話 結衣への贈り物

「結衣」


「俊介君、用事は終わったの?」


「あっ、あぁ。一応」



 やばい。結衣へのプレゼントを買ったのはいいけど、なんて理由をつけて渡そうか考えてなかった。

 意気揚々とアクセサリーを買ったけど、どうやって彼女に渡せばいいだろう。

 そのアイディアが思い浮かばなかった。



「どうしたの俊介君? なんかそわそわしてるけど?」


「何でもないよ。それより自分の買い物は終わったか?」


「うん。大体欲しい物は見つかったから、後はレジに持っていって買うだけだよ」


「そっ、そうか」


「あれ? 俊介君右手に小さい袋を持ってるけど、何か買ったの?」


「うん。実はこれ結衣にプレゼントしようと思って」


「私にプレゼント?」


「そうだ。2年生に進級してからいつも結衣にはお世話になってるから、そのプレゼントだ」



 俺がアクセサリーが入っている紙袋を手渡すと、結衣も嬉しそうに受け取ってくれた。

 そしてその場で紙袋の中身を確認しようとする。



「結衣、ちょっと待って」


「どうしたの?」


「そのネックレスこの店で買ったものだから、出来ればここを出てから見てくれないか?」


「うっ、うん。わかっ‥‥‥」


「その心配はないですよ」


「さっきのお姉さん!?」


「店員さん、どうしたんですか?」


「彼女様はこれからお会計をされるんですよね?」


「はっ、はい。そうです」


「そうしましたらご購入されるお洋服はこちらでお預かりしますので、彼氏様にいただいたアクセサリーはあちらの試着室でつけていただければ問題はありません」


「いいんですか?」


「もちろんです。ただその前にお会計をしていただきますので、こちらへどうぞ」


「ありがとうございます」



 結衣から服の入った買い物かごを持つと、お姉さんはそのままレジの方へと行く。

 そこで買い物をした後、お姉さんに試着室へと案内された。



「ここなら問題ありませんので、ぜひ彼氏さんのプレゼントを開けてください」


「ありがとうございます」


「ちょっと待って下さい」


「何ですか?」


「試着室に俺も一緒に入っていますけど、大丈夫ですか?」


「それは特に問題ありませんよ。別に着替えるわけではないんですから、そんなに恥ずかしがらずに堂々といてください」


「わかりました」



 俺としては多大な問題があると思うんだけど、店側が許可してるならいいだろう。

 あとでクレームが入ったとしても何か言われるのはお姉さんなので、俺達が何か言われる事はないはずだ。



「そういえば、1つ言い忘れていました」


「何ですか?」


「いくら狭い空間に2人っきりとはいえ、いかがわしい事をしてはいけませんよ」


「そっ、そんなことしませんよ!?」


「それなら大丈夫です。では、終わったら声をかけてください」



 そう言って試着室のカーテンが閉められた。

 さっきお姉さんに色々注意されたことで、逆に色々な事を意識してしまった。



「(俺はただ結衣にプレゼントを見てもらうだけだ。だから煩悩よ。潔く立ち去ってくれ)」



 試着室という事で、ただでさえ結衣との距離が近いんだ。絶対に間違いは犯すなよ。風見俊介。

 変な気を起こしたら、今後の彼女との関係にもひびが入ってしまう。

 そうなってしまったら後悔するのはお前だろう。だからここは我慢するんだ。



「俊介君」


「なんだ?」


「これ、開けてみてもいい?」


「もちろんいいよ。開けてみて」



 結衣は紙袋からネックレスの入ったケースを取り出すとそれを開ける。

 その時俺は彼女がどんな反応をするのか気になって仕方がなかった。



「わぁ~~~!! クローバーのネックレスだ!!」


「さっき結衣が1着目に選んだ服に似合ってると思ったから買ってみたんだ」


「俊介君、凄くセンスがいいよ! このネックレス、すごく可愛い」



 よかった。結衣が喜んでくれて。

 微妙な顔をされたらいやだと思ってたけど、どうやら俺が心配しすぎだったようである。



「せっかくだから、このネックレスつけたい」


「いいよ。そしたら俺がつけるの手伝おうか?」


「ありがとう。そしたらよろしくお願いします」



 結衣からネックレスを受け取った俺はそれを首にまわす。

 取り付ける金具の所はボタンみたいになっており、差し込むだけで簡単に取り付けが出来るみたいだ。



「(結衣の首筋、白くて綺麗だな)」



 それにどことなくラベンダーの良い匂いもする。

 金具をただつけるだけなのに、なんだか頭がクラクラしてきた。



「俊介君?」


「わっ、悪い!? 今取り付けたから!? 確認してくれ」



 危ない危ない。今俺は何をしようとしていたのだろう。

 結衣が呼びかけてくれたから正気に戻ったので、彼女には感謝しないといけない。



「どうかな? このアクセサリー似合ってる?」


「あぁ、ものすごく似合ってるよ」


「ありがとう。このプレゼント、大切にするね」



 結衣はもらったネックレスを両手で包み込み、まるで自分の宝物のように大事そうにしていた。

 ここまでしてくれたなら、俺も買ったかいがある。



「お客様、どうでしょうか? アクセサリーはつけ終わりましたか?」


「はっ、はい!? ちょうど今終わったのですぐ出ます!?」


「そしたらそろそろ外に出よう。きっとさっきのお姉さんも待ってるよ」


「そうだな。買う物も買ったし、店を出るか」



 それから俺達は2人揃って試着室を出る。

 その後結衣はお店を出るまで散々お姉さんに褒めちぎられ、顔を真っ赤にさせる姿が可愛かった。



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