第152話 満天の星空
「お母さん!?」
「あら? 結衣、どうしたの?」
「何で風見君と一緒に話してるの!? さっきまでお父さんと一緒だったでしょ!?」
「あらあら。結衣に怒られちゃったわ。それじゃあ私はこの辺で退散して、後は若い人達にお任せましょう」
「そうですね。あとは結衣先輩と2人で頑張って下さい。私も戻ります」
「おっ、おい!? 茉莉!! お前まで行くのかよ!?」
「はい。私はバーベキューを堪能してくるので、俊介先輩は結衣先輩を堪能してください」
「それじゃあ茉莉ちゃん、行きましょうか」
「はい!」
結局茉莉は結衣の母親と一緒に紺野先輩達の所へと行ってしまう。
そしてこの場には俺と結衣の2人だけが取り残された。
「とっ、とりあえず座らないか? そこで立ってても足が痛くなるだろう」
「うっ、うん!? それじゃあお言葉に甘えて、失礼します」
先程結衣の母親が座っていた席に結衣が座る。つまりそれは俺の隣の席である。
何度か隣同士になったことがあるけど、こうして2人だけで座った経験は殆どない。
なので心臓はバクバクして、体が硬直してしまった。
「ゆっ、結衣!?」
「どっ、どうしたの!? 俊介君!?」
まずい。あまりの緊張で声が上ずってしまった。
それに結衣は驚いたようで、彼女も俺と同様声が上ずっていた。
「(落ち着け、一度冷静になるんだ)」
結衣と一緒にいる時なんて、今まで何度もあっただろう。
それこそプールにいる時なんて、もっと恥ずかしいことまでしたんだ。
今更2人っきりでうろたえてはいけない。
「大丈夫? お水持ってこようか?」
「大丈夫だ。問題ない」
こんな所でうろたえてないで、結衣に話す事があるだろう。
まずはそれを彼女に伝えよう。
「結衣」
「何?」
「今日はキャンプに誘ってくれてありがとう。俺達も一緒に過ごせるように、茉莉と一緒に計画してくれたんだろう? さっき茉莉に聞いたよ」
「うん。茉莉ちゃんもキャンプに来たいって言ってたから、お母さん達に相談してみたの。そしたら部屋も余ってるしぜひ来てもらいなさいっていう話になって、みんなを誘ったんだ」
「なるほどな。それにしてもよく先生も許可したな。普通あんなことをしたら、学校から怒られるだろう」
「たぶん先生もゆっくりしたかったんじゃないかな? ずっと働きづめって言ってたから」
「確かにな」
ここまであの人は運転してきたのだから、少しは休みたかったのだろう。
生徒は夏休みで学校へ行かなくても、教師はその間も出勤しないといけない。
なので先生も少しばかり長期休暇を満喫したかったのかもしれない。
「そういえばうちの先生はどこに行った?」
「あそこでお父さんと話してるよ」
「本当だ。しかもビールまで飲んで、楽しそうだな」
もしかするとこのキャンプを1番楽しんでいるのは先生かもしれない。
ビール片手に結衣の父親と談笑する姿を見てそう思った。
「明日の午前中までは遊べるけど、俊介君はどこか行きたいところってある?」
「そうだなぁ。この辺りはわからないから、行きたい所とか特にないかな」
「そうなんだ」
「結衣はもう1度行きたい所ってある? もしあるなら、俺はそこに行きたい」
ここは俺よりもこの辺をよく知る結衣に聞いた方がいいだろう。
彼女がおすすめする所なら、どこに行っても楽しいに決まってる。
「私だったら、もう1度牧場に行きたいな」
「牧場か」
「うん。あそこで放し飼いの牛や羊が触れるんだよ」
「そうなのか。面白そうだな」
「それに牧場で売ってるソフトクリームがすごく美味しいの。私のオススメは特選バニラソフトクリームかな」
「それって結衣がソフトクリームを食べたいだけじゃない?」
「そんなことないよ!? 私はそんなに食い意地は張ってないからね!?」
「もちろんわかってるよ」
葉月みたいに食い意地が張ってたら、今頃バーベキューの方へ行っているだろう。
なのに俺の隣に座っているという事は、あまりバーベキューに興味がないのかもしれない。
「あとあと牧場には生まれたばかりの子牛もいて、間近で触ることも出来るんだよ」
「そうなのか」
「うん。だから明日一緒に行ってみよう。寝る前にお父さんに相談してみる」
「そうだな。俺も牧場の方には行ったことないから、明日は一緒に行こう」
「うん!」
いつも以上に嬉しそうにうなずく結衣。その顔には昨日俺の事を心配していたような、一切の憂いはなかった。
「俊介君」
「何だ?」
「なんかこういうの、楽しいね」
「そうだな」
やはり結衣と一緒にいるとすごく楽しい。
楽しいだけでなく、ものすごく落ち着く。
「(こういう日がずっと続けばいいな)」
今は結衣と葉月が付き合っていないからこうして一緒にいられるけど、あとこの時間はどのぐらい続くのだろう。
出来れば永遠に続いてほしいと思うけど、そう言うわけにはいかない。
いつか終わりが来てしまう。
「(あれ? 俺、今何を思った?)」
結衣とずっと一緒にいたいと思っていなかったか?
それに彼女が自分の隣からいなくなるのが寂しいと思ってしまった。
「(それは考えちゃダメだ。だって結衣は葉月の事が好きなのだから)」
下手に告白をして、この関係が壊れるのが1番怖い。
結衣とこうして一緒にいられなくなる。そうなるぐらいなら、このままの関係でいいと思ってしまった。
「どうしたの、俊介君?」
「何でもないよ。気にしないでくれ」
こうして結衣と星空を見ながら、俺の合宿は終わりを告げる。
2人で満天に輝く夏の夜空を見ながら、平穏なひと時を過ごすのであった。
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ここまでご覧いただきありがとうございます。
これで3章が終了のように見えますが、もう少し続きます。
最後になりますが、ぜひフォローや★★★の評価、応援をよろしくお願いします。
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