【完結】学園のハーレム王の友人である俺、マドンナから相談を受ける~~えっ!? お前が好きなのってあいつじゃないの!?

一ノ瀬和人

1章 学園のハーレム王に俺は振り回されている

第1話 ハーレム王の友人

 俺こと風見かざみ俊介しゅんすけの通うこの学校にはハーレム王と呼ばれている男がいる。

 信じたくはないけれど、これは比喩でもなんでもない事実である。



「俊介!」


「耳元でそんな大声を出すな!! 葉月!!」



 休み時間机に突っ伏している俺の耳元で叫ぶこの男こそ、この学校のハーレム王こと小谷松こやまつ葉月はづきである。

 俺に怒られたことが原因なのか、机の前で小動物のようにプルプルと震えている。



「何でそんな僕に冷たい態度を取るの!? 声をかけただけなのに。ひどいよ!!」


「その声の掛け方が間違っているって言ってるんだよ!!」



 耳元であれだけ大きな声で叫べば、誰だって怒るだろう。それを何故葉月はわからないんだ。

 自分がやられて嫌なことはしないって習わなかったのか?



「全く。何で周りはこんな奴の事が好きなんだろうな」



 葉月のハーレム伝説は枚挙にいとまない。それこそ都市伝説かと思う程周りの女性から好かれている。

 例えば毎朝葉月の家に行き、一緒に登校するリアル幼馴染の存在や年上のグラマラスで大人びた先輩。

 そして学園のマドンナやあざといしぐさの腹黒後輩、果ては現役アイドルグループのセンターまで学校にいるありとあらゆる美少女は何故か葉月の事が好きなのである。



「確かに顔はよくて女性には優しいけど、それだけでここまでモテるものなのか?」


「俊介? 何がモテるの?」


「何でもない。お前は気にするな」



 それでもって当の本人はこんな調子だから困る。まるでどこかの漫画の難聴系主人公という程、周りの感情に気づかない。

 こんなことはゲームやアニメの中の話だけだと思っていたけど、実際に俺の目の前で起こっているのだから疑いようがなかった。



「俊介!」


「だから葉月、俺の耳元で叫ぶな。あと距離が近いから離れろ」


「俊介は何でそんなに僕を邪険に扱うの? 僕と俊介の仲じゃない!!」


「うっとおしい!! そんなに顔を近づけるな!!



 近くでみる葉月の顔はきめ細かく白い肌であり、端正な顔立ちである。そんな顔で迫られると俺が困る。

 頼むからそういうことをするのは女子達の前だけにしてくれ。男の俺にするな。



「ねぇ俊介、実はお願いがあるんだけど‥‥‥」


「どうせそんな事だろうと思ったよ」


「それじゃあ僕のお願い聞いてくれるんだね?」


「断る!!」


「何で!? まだ内容も言ってないのに!?」


「聞かなくても大体わかる。お前のろくでもないお願いなんて」



 こいつが俺の所にすり寄って来る時は、決まって厄介な問題を持ってくる。

 俺としては高校2年になる今年こそ、こいつの問題に巻き込まれない事を目標にしていたけど、どうやらその目標も敵わなそうだ。



「その言い方は酷いよ!! 僕と俊介の仲じゃないか!!」


「そんな仲は知らん。それに俺はお前と友達になった覚え等ない」


「何で!? 僕達は腐れ縁と書いて、しんゆうって読む中でしょ!!」


「それは昔からの間柄の時に使う言葉だろ? 俺達はまだ出会って1年しか経ってないんだ。腐れ縁って仲じゃない」



 さすがに出会って1年で腐れ縁って言うのは間違っている。

 そういう言葉は複数年付き合った人に言う言葉だ。



「小谷松君、どうしたの?」


「茅野さん!!」


「茅野、こなくていいぞ。こんな奴ほっとけ」


「そんな!?」


「そう言うわけにもいかないよ。せめて事情だけでも聞いてあげよう」



 目の前に現れた美少女は茅野かやの結衣ゆい。彼女はこの学園のマドンナ的存在であり、全校生徒のあこがれの的でもある。

 ポワポワしていて柔らかい笑顔を向ける可憐な少女であり、俺とは中学時代の同級生であり初恋の相手。

 同級生と言っても当時はクラスも違い全く接点がなかったこともあり、彼女の姿を遠巻きに見守る高嶺の花だった。

 それがこうして同じ学校に進学して同じクラスとなり、葉月も交えて話すことでやっと接点を持つことが出来、今では俺の大事な友人でもある。



「茅野さん、ちょっと聞いてよ。俊介が酷いんだよ」


「茅野、葉月に構わなくていいぞ。こいつの願いを聞くとろくなことにならないからな」


「そんなこと言わないでよ!! 今回はまともなお願いだって」


「本当にまともなお願いなんだろうな?」


「もちろんだよ」



 やけに自信満々の葉月である。さすがにここまで懇願されてしまうと俺も耳を貸す他ない。

 それにここで奴の頼みを聞かないと、優しい茅野にまで葉月の被害が及んでしまう。

 何があってもそれだけは絶対に避けなくてはならない。茅野に被害が及ばない為にも、水際で俺が防がないといけない。それが俺の使命だ。



「わかったよ。とりあえず聞くだけ聞くから。どんなお願いか話してみろ」


「やったぁ~~」


「それで、どんなお願いなんだ?」


「実は今日宿題忘れちゃってさ‥‥‥‥」


「ノートは貸さないし、答えを写すのも禁止な」


「何で僕が言いたいことがわかるの!? もしかして俊介ってエスパー!?」


「お前の言いたいことなんて、簡単にわかるわ!!」



 次の時間は数学の授業である。数学の先生は宿題を多く出すことで有名で、なおかつ忘れたりすると放課後呼び出されて陰湿な説教を長々と受けることで有名だ。

 そして葉月は基本宿題なんて手を付けない。必然的に何を言ってくるかわかる。



「それなら話が早いよ!! 俊介、次の授業の宿題を見せて!!」


「絶対嫌だ!! まだ次の授業まで時間があるんだから自力でやれ」


「そんなぁ~~」


「そんな情けない目をしたって、見せてやらないぞ」



 涙ながら俺の肩を掴む葉月に対して俺はそっけない態度を取った。

 こういったことはこの1度だけではない。去年葉月と出会ってから何回も繰り返してきた出来事だ。



「風見君、小谷松君が可哀想じゃないかな?」


「茅野、騙されちゃいけないぞ!! こんな見窄らしい表情をしているけど、これも葉月の作戦なんだ!!」


「作戦?」


「そうだ!! こうやって自分が宿題を忘れた事を棚に上げて、自分が可哀想なアピールをする。葉月の常套手段だ!!」



 この作戦に俺も何度騙されただろう。毎回毎回宿題を見せてくれとせがむ葉月に、何度も何度も見せて来た。

 瞳に涙をにじませ上目遣いで俺の顔を見る葉月に対して、毎回これが最後と言われて見せて来たのだ。



「茅野、宿題ってのは忘れて来た奴が悪いんだ。それを情で見せてもそいつの為にならないだろう」


「風見君の言う通りかも‥‥‥」


「本当に今回‥‥‥今回だけだから。だから茅野さん、お願い」



 こいつ。俺が無理だと悟って、ターゲットを茅野に変更しやがった。

 茅野は押しに弱い。もっと言うと葉月にも弱い。

 現に彼女はオロオロしながら心配そうに葉月のことを見ていた。



「ねぇ、小谷松君。もしよかったら私の‥‥‥‥」


「茅野、いらん気をまわすな」


「でも」


「そんなことをしても葉月のためにならないぞ。たまに怒られるぐらいがこいつにはちょうどいいんだ」


「そんな‥‥‥‥」



 葉月が絶望の表情を浮かべるのを見て、俺はざまぁないなと思う。

 それに俺は知っている。最近俺がダメならちゃっかり茅野が葉月にノートを貸したりしていることを。



「(あいつの事だから、茅野からノートを借りた後は絶対俺にぶーたれてくるに決まってる)」



 その度にむかつく顔をしてくるので葉月の脳天を拳骨で殴っている。どうやら今回また葉月にやらないといけないらしい。



「でも小谷松君、なんだか可哀相」


「可哀想じゃないだろ? これも全て葉月の自業自得だ」


「でも‥‥」


「茅野の気持ちはわかるけど、そんなに葉月に対してお節介をやかなくてもいいよ」



 俺が茅野に対してこんな言い方をするには理由がある。それは茅野が葉月に恋をしているからだ。

 どうして俺がそう思ったか。その理由は茅野が葉月のことについて俺によく聞いてくるからに他ならない。



「(茅野の好きな人はたぶん葉月なんだよな)」



 面と向かって明言されたわけではないけど、茅野が言う好きな人とは十中八九葉月の事だろう。茅野が高校に入ってから俺と話していた時に茅野自身がそう言っていた。

 その日の夜は柄にもなく涙で枕を濡らし俺は切り替えた。茅野の恋を応援しようと。

 その情報を踏まえたうえで俺は色々と茅野の事情を察し、今では茅野から身を引きサポート役へと立場を変えた。



「(最初は複雑だったけど、今ではこのポジションでよかったと思ってる)」



 正直最初は腹が立って葉月の頭を思いっきりはたいてはいたがそれも過去の話。

 好きな人が幸せになるのなら、それはそれで俺も嬉しい。だから今では俺も茅野の恋を応援している。



「茅野さん、お願い」


「う~~ん」」



 見窄らしい姿の葉月を見て、茅野は宿題を見せるかどうか悩んでいる。

 こんな姿をみせても軽蔑しないのは、茅野が葉月の事を好きだからだろう。



「(それにしても学園内にファンクラブまで結成されている茅野に好かれるなんて、葉月は本当にうらやましい限りだな)」



 どうやったらあんなに女子、それも美少女ばかりにモテることができるのだろう。それが俺には不思議だ。



「なぁ、お願いだよ俊介。一生に一度の頼みだから」


「一生に一度の頼みってこの前も言ってただろ?」


「あれ? そうだっけ?」


「惚けるなよ。その言葉はもう聞き飽きたわ」



 入学以来俺はこいつのお願いをどれだけ聞いてきたのかわからない。

 ざっと思い出すだけでも3桁は超えているはずだ。



「悪いけど、お前が100回転生しても貸しが残るぐらいの頼みは聞いてきたぞ。だからその手はもうなしだ」


「そっ、そんな~~」


「そんな情けない顔をしても駄目なものは駄目だ!!」


「風見君、本当にいいの?」


「いいのいいの。因果応報、たまには先生に怒られればいいんだよ」



 そうは言うものの、俺は宿題を書いたノートを貸すか非常に悩んでいる。

 正直葉月の事はどうでもいいけど、茅野の事が心配だ。



「茅野、大丈夫か」


「うん」



 俺としては別に葉月が困った顔をするのはいいけど、茅野の悲しそうな表情はみたくない。

 現に茅野は今にも泣きそうな顔で俺のことを見ている。



「俊介」


「風見君」



「あぁ、もうわかったよ!! ノートぐらい貸してやるから、そんな顔をするな!!」


「本当!? 嘘じゃないよね?」


「本当だから。そんなに疑うな」



 俺は机の中からノートを取り出し、渋々葉月に渡す。

 ノートを受け取った葉月はというと満面の笑みを浮かべて、そのノートを受け取った。



「ありがとう俊介。この恩はどこかで返すから」


「どこかじゃなくて、今返してくれ」


「でも、今僕が俊介に出来ることはないし‥‥‥」


「冗談だよ、冗談。それよりも早く答えを写して、そのノートを返してくれ」


「うん。わかった。すぐ返しに行くから、ちょっとだけ待っててね」



 それだけいうと葉月は自分の席へと向かう。

 席に着いて静かにノートを写す葉月を見て、俺はため息をついた。



「あいつは本当に世話が焼けるな」


「でも、風見君もほっとけないんだよね」


「まぁな」


「ふふっ、風見君って本当に優しいね」


「優しいんじゃない。こういうのをただのお人よしっていうんだよ」



 俺がいつも葉月に甘い顔をするから、こいつも調子にのるのだ。

 そのことを改めて実感して、思わずその場で天を仰いでしまう。



「私はそういう所も風見君のいい所だと思うよ」


「そうか? 俺は自己嫌悪してる真っ最中だけど」


「風見君はお人よしじゃなくて、困っている人を見過ごせないだけだよ」


「そう思ってくれるのは茅野だけだよ」


「絶対そんなことないよ!! 私以外にもそう思ってくれる人はいるよ!!」


「おっ、おう」



 珍しい。茅野がこんなに感情的になるなんて。

 普段は何を考えているかわからない不思議な子といった印象なのに。今日はまるで印象が違う。



「風見君は中学の時と全く変わってなくて嬉しいよ」


「待て、茅野。それはどういう‥‥‥」


『キーンコーンカーンコーン』


「あっ、チャイムがなった」


「そろそろお互い席に着こう。俺も宿題のノートを回収しないとな」



 必死にノートを書き写す葉月の事を見る。

 あまり焦っていないようなので、きっともうすぐ写し終わるのだろう。



「そしたらまた後でな、茅野」


「うん」



 こうして茅野は席に戻り、俺は葉月の席へと行く。

 必死に答えを写す葉月から、ノートをぶんどり次の授業の準備をするのだった。

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