018 / 新たなる出会い

「すみません、客のようです。その遊びについては後ほど」


「わかった」


 アーネが席を立つ。

 この一ヶ月で、アーネの感情表現はある程度理解できるようになった。

 無表情で振れ幅こそ少ないが、彼女の気持ちは目に出る。

 俺が見るに、悪くない反応だ。

 誘い方によっては久し振りにセッションができるかもしれない。

 冒険に興味がありそうだし、ダンジョン攻略を疑似体験させてあげるのも一興だろう。

 そんなことをニヤニヤと考えていたところ、


 ──どがらがしゃん!


 背後で激しい物音が響いた。

 思わず振り返る。


「あだだだ……」


 軽鎧メイルを着込んだ十代半ばほどの少女が、真っ二つに割れたテーブルのあいだでうめいていた。

 赤い髪を高い位置で結い上げた少女の背中には、恐ろしく巨大で無骨な戦斧バトルアクスが背負われている。

 冒険者のように見えた。


「大丈夫ですか」


「だ、だいじょーぶ、らいりょーぶ……」


 少女がふらふらと立ち上がる。


「怪我がなければよいのですが」


「ない──と、思う。ありがと」


「いえ」


 アーネが少女に向かって右手を差し出した。

 反射的にか、少女がアーネの手を握る。


「違います」


「?」


「テーブルの弁償金として青銅貨五枚、迷惑料として鉄貨五枚をお支払いください」


「あ」


 そりゃそうだ。

 恐らく転んだか何かしたのだろうが、テーブルを壊しておいてお咎めなしとは行かないだろう。

 少女が財布を取り出し、テーブルの代金を支払う。


「すみませんでした……」


「いえ、弁償していただければいいのです」


「その。それで、一晩いくらかな……」


「一泊、青銅貨三枚。鉄貨五枚で朝夕に食事がつきますが」


「──…………」


 少女が、財布の中身とにらめっこする。


「……食事だけお願いします」


 手持ちが足りなかったらしい。


「了解しました」


 少女の様子を横目で見ながら、思案する。

 初めて見た俺以外の冒険者だ。

 どう見ても頼りないが、ソロで潜り続けるよりはずっとましだろう。

 それに、宿無しはさすがに可哀想だものな。

 酔いにまかせた軽い気持ちで、俺は二人に近付いていった。


「──よ、こんばんは!」


「……?」


 少女が怪訝そうな顔をする。


「よかったら、足りないぶん出そうか。仲良くしよう!」


「──…………」


 少女が、自分の体をかばうように、俺に対して半身を向けた。


「……もしかして、ワイセツなこと考えてない?」


「考えてねえよ!」


 なんだ。

 俺はそんなに猥褻な顔をしているのか。

 そんな俺を見て、アーネが口を開く。


「今のはリュータの言い方が悪いと思います。どう聞いても、怪しい」


「うんうん」


 マジか。


「いや、そういうつもりじゃなかったんだ。ただ、俺以外の冒険者になんて、初めて会ったから……」


「ええ、リュータの意図はわかります。ですがそれは、友達である私だからわかることであって、初対面の方であれば勘違いも仕方ありません。特に、女性の一人旅であるように見受けられますから、そういった危険には敏感でしょうし」


「うんうん」


 アーネが少女に向き直る。


「こちらは、クドウ=リュータ。吟遊詩人です」


「ぎ!」


 少女が目をまるくする。


「吟遊詩人! ほんとなの?」


「ああ」


 その場で羊皮紙と羽根ペンを出してみせる。


「ほんとだ、すごい……」


「リュータは、この街のダンジョンにソロで挑んでいるのです。声を掛けたのは、あなたをパーティに誘うためでしょう」


「ソロ!?」


 少女が、さらに驚愕する。


「パーティ組まずにダンジョンに潜る人なんて、この世に存在したんだ……」


 ぼっちで悪かったな。



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