死んで一度きりのタイムスリップ

霜花 桔梗

第1話 死の三ヶ月前

 わたしは既に死んでいた。神様は残酷だ、死ぬ三ヶ月間の間に大好きな人ができた。

 

 闘病と恋愛を同時に行い。そして、死んでしまった。それから一年、大好きな健一君が一周忌にわたしのお墓に来てくれた。


「あれから一年、もう、佐知の事をようやく、諦めそうだ」


 健一君、未練が消えたのね。これでわたしもこの世に未練はない……。


 そんな事を思いながら自分のお墓の側でふらふらと浮いていると。わたしの


 周りを光り輝く蝶が舞い始める。


 言葉は無かった。


 YesかNoの二者択一であった。


 それは、一年と三ヶ月前にタイムスリップであった。


  ***


 わたしは市内の総合病院に来ていた。それは血液の癌の治療の為だ。歩いていると一瞬、力が抜けて、後ろのいた青年にぶつかる。それは同じクラスの健一君であった。


「大丈夫?あれ?よく見ると佐知さんではないか」

「こ、こんにちは」

「俺はギックリ腰のじーちゃんの付き添いだよ」

「そうなの、わたしは貧血で来たの」


 そう、覚えている、この偶然に出会って二人は恋に落ちたのだ。あの時は素直に癌だと言ったけれど今回は伏せておこう。


 でも……きっと同情されたから特別な人に成れたのだろう。


 貧血では……。


「じゃ、佐知さん、またな」


 やはり、ダメであったか……でも、これで良い。健一君にもう一度、先に旅立つ苦痛は与えたくない。


「ところで、俺さ、佐知の携帯の番号を知りたいのだけど」

「え?」

「携帯の番号を交換しただけでショートメールができるじゃん」

「そ、そうね、わたしは構わないわ、交換する?」

「おっしゃ!これで、俺達特別な関係な」


 健一君は笑顔で携帯を取り出すと子供の様にはしゃぐのであった。わたしも携帯を取り出して健一君の十一桁の番号を入れる。


「おし、交換OKだ」

「ありがとう」

「え?携帯の番号交換で『ありがとう』?」


 つい、本音が出てしまった。やはり、わたしは健一君に恋をしている。この苦しい気持ちは生前に戻った様に心がバクバク言う。イヤ、本当に戻ったのだ。一年と三ヶ月前に……。


  ***


 うー体が重い。わたしの体は病気の進行と共に自覚症状が増えていった。わたしは骨髄移植などのワードを携帯で調べていた。


 二度目の闘病生活だ、それは死の恐怖は無かった。死ねば一年ほどで消えるのだ。


 ただ、わたしは人一倍、やり直す事を願ったのだ。だから、健一君と付き合い始めた死の3ヶ月前にいるのだ。死の恐怖は無くても生への願望は強くなっていた。


 そう言えば、学年別の進路調査を書かなければ。文系と……大学は地元の三流大学でいいと書き足す。この調査で三年生になったらクラス分けするのである。それも簡単な文系と理系に分けるだけで進学校ではない。わたしはぼんやりと、季節が流れていく時間に闘病生活と日常の狭間で健一君との未来を考えていた。


 夏は海に行きたいとか簡単なモノである。

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