あるがままに

@chauchau

第1話


 どの時代に於いても。

 どの場所に於いても。


 人間とは欲の塊であった。


 金が欲しい。美しくなりたい。

 偉くなりたい。強くなりたい。


 他者を蹴落とし、嘲り笑う。

 自身が幸せであることを証明するために、他人を不幸に陥れる。


 人間とは醜く、愚かで、愛おしい。

 吾輩は彼らの欲を叶えた。叶え続けた。叶えれば叶えるほどに、彼らの欲が終わりを迎えることはない。

 膨らみ続ける欲がその身を破滅へと導こうとも。彼らを欲することを止めない。止めることができない。


 そうして、

 人間は吾輩を呼びつづけた。


 吾輩の名はアル。

 契約に基づき君の願いを叶えよう。

 欲すれば願うが良い。迷うことなどありはしない。ただ、吾輩の名を呼べばよい。


 願い、願いて、願わくば。

 吾輩に届けと願いたまえよ。


 君の願いを、

 聞かせておくれ。


 ※※※


「吾輩を呼ぶは其方か」


 何年ぶりかと考えることすら麗しい。

 足元に描かれた魔法陣が、彼女が抱える魔法書が、その身に宿る願いが、吾輩を呼ぶ。


「吾輩の名はアル。さぁ、願いたまえよ」


 此度の召喚者は幼い少女。

 構いはしない。構わないとも。


 吾輩は願いを叶える存在。

 必要なのはその身に宿る願いの強さ。


 歳も、性別も、身分も必要ない。

 吾輩は選り好みなどはしはしない。人間でありさえすれば。


「君の願いを叶えてあげよう」


 すべてが愛おしい。

 吾輩の食糧。


「おっ!」


 小さな口が大きく開く。

 さぁ。さぁ。さぁ。さぁ。


「おねがい!!」


 願いたまえよ!!


「ココロのママになって!!」


「…………うむ?」


 吾輩の名はアル。

 悪魔アル。


 本日より、

 幼い少女ココロのママになりました。

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