B-31

「…じゃあ、父さん?また来年も帰ってくるからね?」


 俺たちは父さんに別れを告げ、人目を憚らずに父さんの前で…手を繋いで見せてあげたんだ…。


 父さん…紡のことは任せてくれよなっ…?そして次は俺の番だ…ちゃんと見守っててくれよ…?


 ◇ ◇


 駐車場に戻って車に乗り込む俺たち。


 しんみりとした空気が流れているかと思えば、そんなことも無く…紡はずっとモジモジしていたんだ。


「…紡?どうした?大丈夫?」


「おっ…思い出しただけで…恥ずかしいんだよっ…先輩の言葉が…嬉しすぎてさっ…ほんとに、ありがとう…///」


 俺は、可愛くモジモジする紡の頭を、いつも通りポンポンと撫でてあげながら


「…お前は俺にこう言ってくれただろ?…絶対にもう1人にしないから…って///」


 どんな事があっても俺は、こいつを離したりしない…そして俺からも離れて欲しくない…もう、一人ぼっちは懲り懲りだ。


「僕さっ…?先輩と一緒に…父さんと会えて嬉しかった…父さん、笑ってくれてるかな…?」


「大丈夫、父さんはきっと…お前ら頑張れよっ!そう、微笑んでくれてるはずだよ?」


 その一言で、また紡の笑顔が光り輝き、俺たちはそのまま、今日泊まる宿へと向かっていったんだ。


 ◇ ◇


 -俺たちは古風漂う宿屋に着き、入口をくぐり抜けていく。


 くぐり抜けた先には、女将さんと若女将さんが出迎えてくれて「八神様ですね?お待ちしておりました」と優しく声をかけてくれたんだ。


 それに続けて若女将さんが

「今日泊まられる和室に…えっ?!紡?!」


(…ん…?どういうことだ…?)


 それに合わせて若女将を見た紡までも

「…えぇっ?!さ、さっちゃん…?!」


 とお互い、驚きを隠せない様子だったんだ。


「あら!知り合いさんかい?」


「…はいっ!児童養護施設で仲良くしていた友達なんです!」


 と女将さんに笑顔で返していて…そのまま紡に駆け寄ってきた。


「紡、元気だったの??」


「うん!この通りだよっ!!」


「ちなみに…この方は?」


(紡…なんて返すの…??)


「さっちゃんなら…分かるよね?///」


「…ほわぁ///羨ましい…///」


(んっ…?!どういう事だ…?!)


 後々、紡に聞いてみたら『さっちゃん』は紗季さきちゃんと言うらしく、児童養護施設で出会った友達で、お互い何でも話し合える仲なんだとか。


 俺と付き合った時も連絡を取っていたらしく、何度も良かったね!幸せになって!と応援してくれていたらしい。


 ただ、女将さんの年代の方には、この同性愛という現実を受け入れるには難しいところもあるようで…紗季ちゃんは、女将さんの前で俺たちが付き合っている事は上手に伏せてくれていたらしい。


「さっちゃん、ここの若女将さんだったんだね!」


「そうそう!最近、お世話になったばかりなんだけどね!…うわぁ!まさかここで、こうやって紡に会えると思ってなかったから、凄い嬉しいなぁ〜♪」


 友達との再会に女将さんも優しそうに微笑んでくれていて…俺も2人の再会に気持ちがホッコリしたんだ…。

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