B-27
―次の日
夏休みまであと2日…俺は、紡から借りた《父さんの料理レシピ本》をカバンに入れて、有紀の元へ向かっていた。
料理部に着くと、ナイスタイミングで有紀だけがいたんだ。
「あら!凌空からここに来るなんて珍しいわね!」
「…ちょっと、お願いがあって来たんだ…」
俺の真剣な顔を見て、何かを悟ってくれた有紀…。
「なんかあったのね…?」
「…ああっ…」
「多分だけどさ、八神 夏希さんの件でしょ?」
「…っ!!!」
「…昨日、紡が夏希さんのレシピを見つけたあと、様子が変でね?そのまますぐに、あんたの所に走って行っちゃったもんだから…」
こいつの読みには敵わんな…とそんな事を思いながらも俺は、とある真相を探さなければならなかったんだ…。
なぜ、紡のご飯を食べたら、母さんが出てきたのか…これが俺の疑念だったんだ…。
なんの根拠もないけれど、母さんのレシピを見たら何かわかるのかもしれない…。
もしかしたら、それ以上の真相に繋がるのかもしれない…そして、一筋の光になって欲しいと思ったんだ…。
「八神 夏希がいた時のOBの料理集が見たいんだ…。」
「八神さん…確か、3期生だったはずよね」と、1度結んで処分するはずだったレシピ本の束から3期生がいた頃のレシピ本を全て、漁り出してくれる有紀。
漁ってる途中に有紀が「ねぇ、私さ?よく分かってないんだけどさ、凌空?覚悟出来てるの?あなたの、お母さんのメニューを見る覚悟…」
その言葉に、何故か胸が包丁で刺されたかのようにグサグサと痛みを帯びるのを感じて…
レシピを見た時に疑念が晴れたとしてもその真相は、本当に知ってもいいものなのか…。
それでも、この時の俺は、真実が知りたい…その一心しかなかったんだと思う…。
「…ああ、見なければいけない気がするんだ…もう、後ろは向かない…そう、紡と約束したから…」
俺の返答に有紀も少し心配そうな顔をしてくれたけれど、俺の覚悟を汲み取ってくれたようで…
調理台の上に母さんがいた頃のレシピ本を並べてくれたんだ…。
「好きなだけ見て大丈夫だから…私は、席外すからね…?」
そう言い残して、有紀は調理室から出ていった。
(有紀…本当にありがとう…)
調理台の上に並べられた母さんのレシピと紡から預かった父さんの料理レシピ本を調理台に並べて…俺はそっと…2つのレシピ本を開いていったんだ…。
…ペラっ…
…ペラっ…
………
…………っ??!
……お、お、おい……
……うっ…うそ、だろ………?!
俺の目の前に現れたメニューは、母さんが書いた卵焼きの作り方と紡の父さんが書いた卵焼きの作り方で…俺は、目を疑った…。
どっちのメニューは、何もかもが…一緒だった…作り方の工程からコツ、そして隠し味のマヨネーズまで…。
その他のページも見比べてみたが…母さんのレシピ本の内容と紡の父さんの料理レシピ本の内容が、ほとんど似ていたんだ…。
調味料の使い方から具の切り方、味付けのタイミングや隠し味まで似ていて…
疑念が確信に変わり、バラバラになっていた心のパズルピースがカチカチッとハマる音がしたんだ…。
そりゃ…紡のご飯を食べて、母さんが出てきてもおかしくない…だって、紡が作ってくれる料理は…
''…先輩の家庭の味になってくれたら…''
母さんが作ってくれた料理の作り方をそのまま覚えて、振舞ってくれたといっても過言ではない…。
母さんの料理に…なんら変わらないことに俺は気づいてしまった…。
だからこそ、紡のご飯を食べた時に…俺の脳裏に母さんが現れてしまったんだ。
そして、OBのレシピ本の最後のページにあとがきと編集者名が綴られていて…それを読んだ時に俺は、とうとう真実を知ってしまったんだ…。
''美味しい料理は、人を幸せにして…その分、作った自分にも幸せが返ってくる''
''みんなも愛してる人に美味しいご飯を作って、食べて貰って幸せを分かちあって欲しいと思います!''
紡が父さんによく教えて貰っていた言葉がこのレシピ本に鮮明に書き表されていて、紡の苗字と同じ松本が記されていた…。
そう、この料理レシピ本は…
俺の母さんと紡の父さんが作ったものだったんだ…そして、2人は、愛し合っていた…珍しい苗字の八神に…紡と同じ松本…。
そう、俺は…紡が俺の弟だということをこの時に確信してしまったんだ…。
神様…?これは、なにかのイタズラですか…?
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