B-19
思いが溢れて、ぽたぽたと落ちる紡の涙。
「…せ、せんぱっ…ぃ…」
「ゆ、ゆっくりで大丈夫だからな…?」
俺は、紡の背中をさすりながら、涙が溢れた理由を聞いてあげたんだ。
「…ぼ、ぼくのねっ…?と、父さんにも…会ってくれるの…?」
「ああ、もちろんだよ?ちゃんと、紡とお付き合いしてますって。紡のことは、俺に任せてくださいって挨拶させてくれないか?」
俺の言葉に紡は、ヒクヒクと涙が止まらなくなってしまって、そのまま…俺の胸へと飛び込んできた。
「…あ、ありがどゔ…ぜんばぃ…ぅ…っ」と泣きじゃくる紡を俺は、ギュッと包み込み…
「2人で…両親に会いに行こうな…?」
そのまま紡が泣き止むまで、頭を撫で続け俺の温もりを分け与えていく…。
そんな部屋の中には、1人きりで頑張ってきた俺たちを表すようかのような歌が響き渡っていたんだ。
◇ ◇
少しして…泣き止んだ紡は俺に「来月…楽しみにしてるね…?///」と腫れぼったい目でニコッと返してくれた。
「ああ、ちょっと遠いから宿でも取って泊まりがけで行こうな?」
「…っ…///…うんっ!」
紡に聞けば、お互いのお墓があるのは都内から少し離れた場所で、日帰りでも行けなくはないが、ゆっくり心と身体に余裕を持って回りたかった。
そして、俺らの墓参りは2人で行く初めての旅行にもなるんだし…。
「今後、ゆっくり2人で決めような?」
「…うん!先輩、ありがとうっ!」
そう言ってまた、俺に飛びついてくる紡に俺も自然と顔が綻んだのは他でもなかった…。笑ったり泣いたりと忙しい状態だけど、どの紡も俺は大好きなんだ。
「あ…あああっっ!!そういえば…!」
「うん?紡、どうした?」
「僕っ…卵焼き作ってない!!!」
忘れていた訳では無いけれど、卵焼きよりも紡とのこの時間が愛おしすぎて…でもよく考えたら紡は今日泊まっていくんだ。なら、明日のお楽しみでもいいのかなって俺は考えていた。
「紡…?明日の朝ごはんに…卵焼きを作ってくれないか?///」
「そうかっ!その手があったよね!!うふふっ!先輩?美味しい朝ごはんにするね?///」
「ああっ…///楽しみにしてるよ?」
朝ごはんか…ちゃんと食べるのいつ振りだろうか…でもこんなこと言ったらまた紡に怒られちゃうよなっ…。
そんなことを思いながら、明日の朝ごはんが待ち遠しい俺に対して紡が新たな話題を切り出してきたんだ。
「そういえば僕ね?ずーっと思ってたことあるんだけど」
「ん?なんだ?」
「先輩の苗字って珍しいよね?」
「ああ、それはみんなにもよく言われるな」
俺の苗字は
これまでの人生で俺自身も八神の性を持つ人には、出会った事が無かった。
「逆に紡の苗字は、覚えやすい」
「だって学年に1人は、いたもんなぁ…!」
「俺のクラスメイトにもいた気がする…」
紡の苗字は
「俺はどんな苗字だとしてもお前が好きだよ?」
「ぼっ、僕だって…!///」
いつか、八神の性を紡に名乗って欲しいな…そんな叶うか分からない想いを俺は、心に秘めながらも気付けば日付も越えていて、お互い少しずつ眠気が襲ってきていたのは確かだった。
「紡?そろそろ寝ようか?」
「うんっ…寝るのちょっと勿体ないけど…」
「明日起きてもまた一緒だから、2人で明日も楽しもうな?」
「…うんっ!///」
今までずっと、一人で寝ていたベッドに俺は紡をエスコートして…俺の匂いと若干残る紡の匂いがする布団に、2人で身を包んでいったんだ。
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