B-6

 紡が見つけたあるものはそう、この日の為に俺が用意した2人の浴衣だ。


「紡の浴衣だよ?」


「うそっ…」


 紡は、何も言わなくても明るい色の浴衣に手を伸ばし、手に取った。


「…今日、一緒に着ていこうな?俺さ、お前の浴衣姿が見たくてさ…?」


 照れながらも微笑みながら紡に声をかけると嬉しさのあまりなのか顔は、赤いけれど無邪気な紡を発揮してくれたんだ。


「先輩…!ありがとう…!!僕…僕ねっ?!実は、浴衣…すっごい着たかったんだ…!!///」


「ああ、知ってるさ、紡に似合うといいな?」


 紡は大事そうにそっと、浴衣をテーブルに戻して、俺の胸に飛び込んできた。


「先輩…本当にありがとう…っ」


 胸に飛び込んできて、ギュッと力強く俺にしがみつく紡の頭に手をやり、撫でてやりながら


「…楽しい夏祭りの思い出、一緒に作ろうな?」


 しがみつく紡は、俺の言葉に頭をコクコクと縦に振り、言葉にならずに少し泣いているようだった。


 ◇ ◇


 ―少しして


 俺たちは、2人でそれぞれの浴衣を取り出して、柄を見せ合う。


「先輩の浴衣の色もかっこいい!」


「シンプルだけど、こういうのが1番しっくりくる気がしてな」  


「わぁっ!僕のもかっこいいっ!!僕の好きな色合いだし!!」


「気に入ったか?」


「うん!もちろん!!」


「ふふ…よかった///」

 俺はもうこれだけで、お腹いっぱいだよ?


「早速着てみたい!!」と意気込む紡。

 ただ、この浴衣を着る準備が、いよいよ2人だけの一線を越える準備にもなるなんて思ってもみなかった。


「あ…///」


「ん?紡…どうした?」


「浴衣ってさっ…?服を脱いで着ないとだめ、だよね…?」


「んん?まぁそうだろ?」


「ぼ、僕…脱衣場で着替えてくる…!!///」


 そう、俺たちはまだ、お互いの身体を見せ合ったことがなくて、好きな人の前で脱ぐ行為もしていない。


 恥ずかしさはあったとしても、いずれどこかで見せ合う日が来るのはお互いわかっていたものの紡の中では、恥ずかしさの方が勝っていたのかもしれない。


「でも、紡?帯、結べるのか?」


「ええっ?!む、結べない!!」


「俺も1人じゃ結べない…」


「ええええっ?!///」


「ってことは、帯を結ぶ時に結局、身体は見えるだろ?」


「なわわああぁっ…///」


「ならここで、一緒に着替えよう…?」


「う、ぅんっ…///」


「大丈夫、変なことしないから…」


 そう言いながら照れ挙がっている紡を他所に俺は、そっと紡の前でシャツを一枚、脱いでみせた。


「暑いから脱ぐとスッキリするよな…!」


 俺の上半身をぽかんと見つめながら顔を紅潮させる紡。ほんっとピュアなんだから…。


「ほら、紡も脱いじゃえ?なんなら…脱がせてやろうか?」


 ちょっと茶化し気味に話す俺に

「わーっ!!///…大丈夫!!自分で脱ぐ!///」と俺の前でシャツを急ぎ脱いでいく…。


 目の前には、初めて見る上半身をさらけ出した紡の姿…。そんなに筋肉質ではなく、なで肩で華奢な身体付きで、2つの突起は小さく綺麗なピンク色だ。


 俺は、初めて大好きな人の身体をまじまじと見れたんだ…。あまり見ないで…と照れて紡は、俺に顔を合わせてくれない。


「紡?こっち向いて?」


「…いゃっ、恥ずかしいよっ…///」


「こういう姿って、ほんとに好きな人にしか見せないだろ?違うかな?」


「…あ、あわあぁっ…///」


「俺は、見れて嬉しいよ?」

 その言葉に紡もやっと顔を上げてくれて…


「僕、正直にいうと、すっごく恥ずかしい…でも、せ、先輩を見れて僕も、嬉しいのに…もう、心臓が…///」


 そんなことを言う紡の手をそっと手に取り、俺の胸元に当てて見せたんだ。


「ちょっ…?!せ、せんぱ…///」


「紡、分かる?」


「せ、先輩…」


 俺の鼓動もどんどん昂る一方でドクンドクンと早く刻む鼓動が紡の手にも伝わっていく…。


「お互い様ってことなんだよ?好きだから…愛してるからこそ、こんな風にこうなるんだよ?」


「…せ、先輩…///」


「お互い、ゆっくり慣れていこうな?」


 ニコッと照れながら言う俺に紡も少し気持ちが落ち着いたのか「…うん、僕…頑張ってみるよっ…///」と返してくれたんだ。


 でもこの後、ズボン脱ぐんだよな?シャツだけでこんな状態だともう時間が足りないぞ…?

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