B-5

 ―夏祭り当日


 お昼も過ぎ、紡を迎えに行く時間が少しづつ迫ってきていた。


 家の片付けを済まし、身支度をして俺は、テーブルの上に今日のために買った浴衣のセットを2つ用意した。


 紡…喜んでくれるといいな…いや、きっと喜ぶよな…うん大丈夫だ!そんな事を思いながら


《今から迎えに行くから用意して待ってて?》


 紡に一言LINEして、俺は家を後にした。


 ◇ ◇


 紡の家に着き《着いたよ》とLINEを送ると間もなくして、紡の姿が見えて「先輩、お待たせっ!」と笑顔で応えてくれる。


 夏の暑い時期シンプルながらもどこか明るい紡の半袖半ズボン姿は、愛くるしくてたまらなく、そして、そそられたんだ…。


「さ、乗って?」

「…うん!」


 いつもと変わらず、俺の特等席に座る紡。この席は今では、紡しか腰を下ろすことを許されていないんだよ?


 そしていつも通り、紡の大好きな歌手の音楽を流してあげてルンルンな紡の姿をチラ見しながら俺の家までゆっくりと向かっていった。


 ◇ ◇


「うわぁ、こ、ここが先輩の家…!?」

「うん、そうだよ?」


 俺が住んでいるマンションに着き、嬉しそうに、でもどこか落ち着きがなく、驚きを隠しきれない紡。

 その落ち着きのなさは、エントランスに入りエレベータを待っている時も変わらなかった。


「高いところ、大丈夫か??」


 俺が住んでるのは8階で紡のアパートは2階

 8階にもなればかなりの高さになる。てっきり高いところが怖くて落ち着かないのかと思っていたんだけれどそうではなかったようだ。


「高いところは大丈夫なんだけど…これから、僕…先輩の部屋に行くわけでしょ…?…楽しみにしてた分、な、なんだかソワソワしちゃって…///」


 そんなふうに照れながら可愛く話す紡の手を俺はそっと握り

「ははっ!大丈夫だよ、これから何回も来て慣れてくれたらいいさ」と笑顔で返した後、紡の顔がまた赤くなる。


 な、なんなんだこの可愛すぎる小動物はっ!


「さ、エレベータきたよ?いこ?」

「う、うん…///」


 お互い手を握ったままエレベーターに乗り込んで8階まで登って行ったんだ。


 あ、紡の手…やわらかいな…可愛く小さい手。それでも紡の温もりを感じるその手は、シェイクハンドではなく…いつの間にかに恋人繋ぎへと変わっていた。


 ◇ ◇


 8階に着き、部屋の鍵を開けて「紡、いらっしゃい」とドアを開けてあげた。


「…おぉ、おじゃましますぅっ…///うわぁ…いい匂い…///」


「そ、そんなにいい匂いか?」


「うん…!いつも感じる僕の大好きな先輩の匂いがする…///」


 入口から…始まったよ、悪気もなくニコッとしながら、俺の心をくすぐる紡くん。


「ま、まぁ、中に入れ…///」


「うん…!///」


 紡といると心臓が何個あっても足りないないんだよな…とそんなことを考えながら紡をリビングまで案内してあげたんだ。


「わぁあああ…!!!すごい景色!!!」


「眺め、いいだろ?」


「うんっ!!8階からだと、こんな綺麗に景色が見えるんだねっ!!」


 リビングの窓からは、都内が見渡せるようになっていてベランダも付いているからそこでゆっくり景色を眺めることも出来る。


「夜の景色も綺麗だから、お祭りから帰ってきたらベランダで一緒に見ような?」


 その言葉にニコッとしながら「うん!」と返す紡がを見つけたんだ。


「あれ…?!先輩、これ…」

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