旭夜の騎士と夢喰い魔物の獏夜

江東乃かりん(旧:江東のかりん)

第00夜 悪夢の始まり

は……好い夢を見るね」


 びくりと肩を震わせて兄だと思っていた人物の顔を凝視すると、彼は俺が見たことのない見慣れぬ笑みを浮かべる。


「とても美味しそうだよ」


 伸ばされた手は頬に届き、ゆっくりと撫でられる。


 まるで獲物を目の前にした捕食者のような発言と表情に俺の足が震えた。


「お前……兄貴じゃないのか?」

「アニキ?」


 彼は不思議そうに首を傾げると、事故前に良く目にした穏やかな笑顔を見せる。


「きみがそう呼びたいなら、アニキと呼んでも構わないよ」


 しかし返ってきた答えは、兄であることを否定するようなものだった。


「そのほうが、とても好い夢がご馳走になれそうだからね」


 これは悪夢だ。

 兄はこんなことを言わない。

 兄の顔と声をした別人が、俺を惑わせようとしている悪夢に違いない。

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