第3話




 最初は、村が消えた。

 正確には、村人が消えた。


 村人が消えた近くの町からも人が消えた。


 大きな町から、店が消えた。

 空き家や空き店舗が増えた町は、すぐに野盗や破落戸ごろつきの寝ぐらになった。


 その近くの町からは、当たり前だが住人が居なくなった。


 そんな町ばかりになった領地を治めていた地方貴族は、国を捨てて他国へ移住した。

「こんな国で貴族でいるくらいなら、他国で平民となる」と宣言していたそうだ。



 むしろ領地の住人を積極的に他国へ移住させた貴族もいたと、後から知った。

 災害後に復興が上手くいかなかった貴族だ。

 川が氾濫し、橋が壊れた。橋をかけ直している間にまた雨が降り、建設中の橋が流されたのだとか。

 橋が無いと他の領地との交易ができないとかで、最優先で直していたが、国からの支援は一切なく、諦めたらしい。

 橋が完成する前に、領民が飢えで死に絶えると考えたのだとか。

 山崩れの起きた土地でも、似たり寄ったりの事が起きていたようだ。


 今までは国から管理費の補助が出て、職人が派遣されていたから問題が無かった。

 援助が無くなった上に、復興支援も無い。

 更に、災害など関係なく税金を納めろとの通達が来て、国を捨てる事を決めた。


 この土地だけではなく、災害にみまわれた地域のほぼ全てで同じ事が起こっていた。


 今更ながら知った。


 管理費や修繕費を国が補助している土地には、それなりに理由があるのだと。



 もうすぐ国が無くなる。



 正確には、王族が居なくなる。

 なんだ、何て言うんだった?

 あぁ、そうだ。

 クーデターだったな。


 残っていた少ない国民と、国境警備をしていた騎士達と、王制廃止を訴える貴族が叛逆はんぎゃくしたのだ。




 あの女がもっとしっかり俺に注意すれば良かったんだ。

 俺の仕事をひとりでしないで、俺に内容を教えるべきだったんだ。

 もっと俺を支えるべきだったんだ。


 冤罪を着せるまで、俺達を放置したあの女が悪いんだ。


 フローラが妊娠しないように、あの女が心配りをするべきだったんだ。

 俺だって、フローラが妊娠しなければ、あの女を正妃にしただろう。




 寝室の扉が破られ、武器を持った人間がたくさん入って来た。

 捕まったら俺達も処刑されるだろう。

 あの日のアンシェリーとその家族のように。

 だから、必死に抵抗した。

 フローラは、剣を持った男に向かって、我が子を投げつけていた。


 落ちたアンシェリーの首は、俺達を睨み付けていた。

 あの時は、死んでまで何てみっともない女なのかと笑った。

 だがあれは、他人だから良いんだ。

 自分がああなるのは、絶対に耐えられない!

 誰か俺を助けてくれ!



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