第32話

 



「どなたも教えて差し上げなかったのかしら?」

「その前に、教えられなくても知っているはずの事では?」

「確か、先生達も言っておりましたわよね」



 まさかの、まさかの、謝恩会にきらびやかな衣装で登場ですわ!

 隣を歩くハロルドは、自分だけ制服です。

 さすがにおかしいと気付いたのか、王太子が周りをキョロキョロしております。

「な、なぜ、正装しておらんのだ!」

 なぜと言われましても、困りますわよね。


「もう何ヶ月も前から、今年は王太子様の成人祝兼誕生日パーティーがあるので、卒業パーティーではなく謝恩会にしますと掲示されておりましたが……」

 婚約者として、王太子の質問に答えます。

「何を勝手に」

「勝手ではございませんわ。正規の申請手続きを行って、王宮からも許可をいただいております」

 王太子がグッと唇を引き結びました。


「フローラなら、俺に黙ってそんな事はしない」

 悔し紛れなのでしょうか?そのような事を聞こえよがしに呟きます。

 それにしても、フローラはしないのではなくのですけどね。

 立場的にも、能力的にも。

 それに、良い前振りをありがとうございます。


「そのフローラ様は、今日はどちらにいらっしゃるのですか?」

 卒業生ではないので居なくて当然なのですが、知らないふりをして問い掛けます。

「フ、フローラはちょっと体調を崩していて……」

 臨月ですもの!人前には出られませんわよね。

「まぁ!それならば、お見舞いに伺わないといけませんわね。卒業式をお休みされるほど体調がお悪いのでしょう?」

 私は、心配そうな表情は上手く作れているでしょうか?まさかネイサンのような黒い笑みになっておりませんよね?




 王太子の赤っ恥という素敵な贈り物付きの卒業式が無事に終わりました。

 そして1ヶ月も経たずに、王宮から密かに連絡が入りました。

 フローラが男児を出産したそうです。


「おめでとう!アンシェリー!」

 お父様がとっておきのワインを開けます。

「これであの女が側妃になる未来は無くなったわね」

 お母様が私を抱きしめます。

「お姉様、王太子との結婚はやめられないのですか?」

 前回の記憶の無い弟のルパートは、純粋に私の心配をしてくれます。

 ルパートに毒で苦しんで死んだ記憶が無いと判った時には、両親と安堵したものでしたわ。


「大丈夫よ、ルパート。王太子と結婚しても、お姉様は幸せになるから」

 フローラが王太子の公認性欲処理道具に成り下がりました。

 しかも王太子とフローラは、男児の誕生を喜んでいたそうです。

 それどころか、王も王妃も、一緒に喜んでいたそうなのです。


『出産に立ち合った侍医がとても複雑な表情をしていたが、何も告げずに部屋を去った』と報告がありました。

 王も王妃も、王族の結婚については知っているはずなのに、忘れたのでしょうか?

 これならば確実にフローラの出産は発表されますわね。



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