第21話
薬のすり替えを始めてから3ヶ月ほどでしょうか。
いつものように生徒会の仕事の合間に、応接室で皆で休憩をしている時でした。
待ち遠しい夏の長期休暇の1週間前になります。
生徒会室の扉が、ノックも無しに乱暴に開け放たれたのです。
見なくても犯人はわかります。
「アンシェリー!貴様、フローラに毒を盛ったな!」
入って来たのは予想通り王太子でしたが、言われました台詞は予想外の物でした。
何をおっしゃっているのでしょう?
「フローラが何を食べても吐いてしまうんだ!お前が毒を入れているからだろう!」
何という事でしょう!おめでとうございます!
それはきっと
避妊薬を飲んでいるから、妊娠だとは思いもしないのでしょう。
勿論、教えて差し上げる気はありませんわ。
「落ち着いてくださいまし。私には全く憶えのない事ですが、フローラ様は全ての食べ物を吐いてしまわれるのですか?」
私達が寛いでいるソファは人数分しかありません。
しかし、誰も席を譲らないので王太子は立ったまま、話を続けます。
えぇ、お茶も出しませんよ。当然です。
「今まで美味しいと食べていた肉やケーキなど、一切食べれなくなったんだ!フルーツや味の薄いスープしか口にできないなんておかしいだろ!」
なぜそこまで細かく知っていらっしゃるのかしら?
彼女は王宮で、王族と一緒に食事をするほどの立場を確立しているのでしょうか?
「王妃陛下は何とおっしゃっておりますの?」
出産経験のある王妃なら、すぐに気付きそうですが……。
「は、母上は知らない。今は別々に食事をしているからな」
王妃の愚痴を聞きたくなくて、避けているのですね。フローラの部屋で一緒に食事をしているのでしょう。
王族の食事というのは、情報交換の場でもあり、とても重要なものですのに、出席していないのですね。
「では、侍医には診せましたのでしょうか?」
王太子が固まります。
「た、倒れるほど強い毒ではないし、まずは忠告をしに来たのは、王太子殿下の優しさです」
ハロルドが慌てて王太子を庇います。
そうですわよね。医者には見せられませんよね。
フローラと毎晩致している事がバレてしまいますもの。
「おそらくですが、側妃になる為の教育が辛くてお体が弱っているのかもしれませんわね。胃の腑が弱っていると、食べ物を受け付けなくなると本で見た事がございます」
嘘ではありません。
「食べられる物を食べて、安静にする事。
これは妊娠の方の対処法です。お子が安定するまでは無理はいけない、閨事も禁止なのです。
王妃教育で言われた事なので、間違いありませんでしょう。
怪訝な顔をしながらも生徒会室を出て行った王太子とハロルドを見送り、彼等が完全に遠ざかるのをネイサンが確認します。
「今、角を曲がりました。もう大丈夫でしょう」
扉を閉めました。
皆様一様に俯いており、肩が震えています。
サンドラなど、両手で顔を覆ってしまっています。
「やりましたわ……作戦成功ですね」
「すり替える薬を、妊婦用の栄養剤にしなきゃ」
「今からなら、間違いなく卒業前の出産です」
「王家の権力で無理矢理卒業させても、側妃にはなれませんわね」
「皆様、ありがとうございます」
冷めた紅茶で、こっそりと乾杯しました。
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