22話 法螺
「嘘……ですよね」
「えぇ」
灰崎さんは、開き直ったとしか思えない、不自然なニコニコ顔だ。
「記者会見で答える内容を予行練習させて貰いました。貴方に上手く説明出来れば、確実でしょ?」
そう言って満足気に頷き、立ち上がると部屋を歩き回り始めた。
「でもね、これが真実になるんですよ。
入院は事実ですし、病状が悪化した様に診断書を書いてくれる医者も用意してあります。コウはこのまま病気療養の末に芸能界からフェイドアウトする手筈です。そうすれば1番何事もない。幸い彼は全く本名を明かして居なかったからそれ以上詮索される事もない」
何も答えず睨み付けて居ると、灰崎さんはもはや調子に乗ってるとしか表現出来ない飄々とした態度になった。
「考えてもみて下さいよ。こちらの方が、貴方にとっても都合が良くないですか?何も説明する必要もない。マスコミに嗅ぎ回られることも無い。何なら同情すら集まる。良い事しかないでしょう?」
「都合なんて悪くなって構いません」
「そうはいかない、貴方は良くてもこちらはビジネスだ。会社ごと共倒れする訳にはいかないんですよ」
灰崎さんはいつもは微笑んでいる瞳を見開き、奥底は笑って居ないギラつく目で私を見据える。
確かに灰崎さんの言う通り、会社にとっての都合良い選択はこの【病気説】一択だろう。
「わかりました。もう貴方と話す事はありません。最後に、皆さん私から避けさせていたようですけど、レンさんからも話を聞かせて下さい」
「これだけは絶対にダメです。だって貴方は…」
「どうしてですか?不都合があるんですか?」
「不都合って……」
呆れたような表情を浮かべ、口篭る灰崎さんに、もうここに居ることすら無駄だと判断した私は、傍らに置いていたカバンを乱暴に掴み、会議室を後にしようと扉に向かった。
「また、勝手に会うんですか?」
「もう貴方には関係ありません」
「傷付くだけですよ」
「それでも構いません」
「はぁー……」と灰崎さんは苛立たしげにため息を吐く。
「正直、何になるんですか?貴方のやってる事は」
「布教ですよ。皆にアスタリスクを知って欲しいんです」
その言葉を聞いた瞬間、灰崎さんの表情は余裕から焦りに急速に変化した。
私に飛び掛る勢いで近付こうとした。
私はそれを交し、走った
タイミング良く来ていたエレベーターに乗り込み、閉まるボタンを連打した。
追い掛けて来た灰崎さんの絶望する顔が、扉の隙間に消えて行った。
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