18話 安価な紫
衝撃的な話を聞いたというのに、頭は妙に冷静だった。
帰り道、手持ち無沙汰なので
先程言われていたキャバ嬢のSNSを検索してみる
フォロワー3万人、フォローしているのが200人
でもその中にはやたらとフォロワー数が少ない鍵垢が何件かあって、これらは恐らく芸能人の裏垢なのだろう。
彼女の投稿は
8割りは加工しまくった自撮り
貰ったプレゼントの写真
飼っている猫の写真
誕生日にテーブル1面のボトルとの写真
店の横に捨て猫が居たとか
帰り道酔っ払いに絡まれたとか
新しいヒールを買ったとか
芸能界にスカウトされたとか
他愛もない日常とちょっとした自慢と愚痴
と至って普通だった。
当たり前だが、覚醒剤の確証はない。
その当初の目的が全く無駄になった徒労感を差し引いても彼女があまり愛すべき素敵な人物ではないのは何となく分かった。
ただ不審に思ったのは、彼女がある日を境にやたら赤い服や小物を載せるようになっていた事だ。
俗に言う匂わせ投稿というやつだろう。
アスタリスクのCDを写りこませたり、コウが公式アカウントで載せていたのとお揃いの食器を載せたりしている。
ファンへのマウントのつもりなのだろうが、私はこの行動の意味が分からない。
『ファンはどちらがより推しを愛しているかでマウント取り合ってるけど、私はそのお前らの推しから愛されてるから!』という事なのだろう。
幻想を抱き、興味を持たれてすら居ない相手を一方的に愛しているファンを馬鹿にしているのだろうけど
彼女達は自分が愛している人が、自分を愛してくれている人を馬鹿にする人物の方が嬉しいのだろうか?
私はアイドルを好きになってからずっと思っているが、私はファンを愛しているアイドルの事を愛していると思う。
沢山の人を愛して、沢山の人から愛される。そんな人だから好きなのだ。
他のファンへの嫉妬も超えて、愛される事がアイドルとしての究極の姿だと思う。
自分を愛してくれる人に感謝の念すら抱かず、ただ滑稽だと馬鹿にして笑う人間がアイドルとして魅力的な人物で居られるのだろうか?
それに、アイドルだってファンを全く愛さないものなんだろうか?ファンが居てくれるから活動が出来るのだし
いつでも自分を応援して、味方で居てくれて、自分を好きでいてくれる人にLoveじゃなくても、likeの感情すら抱かないものなのだろうか。
こんな事を言えば、現実を見ろと笑われるだけなのだろうけれど
それでも、私が好きだった彼はファンを愛していたと思う。
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