9話 青の境界線
メンバーカラー青を担当していたアイこと
浅葱との待ち合わせ場所は街中にある極普通の喫茶店だった。
人目もあるところで、話題になっているアイドルグループの人間が異性と会うなんて不用心にも思えるが
逆に人目があることで、自分の身の安全を確保するつもりなのだろうか。
相手の思惑に思索を巡らせながら目的地に向かった。
店内に入ると、隅の席に座っている人物が浅葱だとすぐ分かった。
室内なのに帽子を被り、マスクで顔を隠しているのが逆に目立っている。
待ち合わせですと店員の案内を断り、席に近付くとチラッとこちらを見て
私が話しかける前に「話はここじゃなく近くに停めてる俺の車でしたいんだけど、いい?」と小声で聞いてきた。
「分かりました」
とだけ応えると、浅葱はスッと立ち上がり、会計を済ませて店から出ると私より2歩前をスタスタと歩き始めた。
浅葱はグループの中でも1番高身長で世間一般でもかなり高い部類なのでそれだけでも目立つ。
顔をほぼ隠しているのに、ただ歩いているだけでも「イケメン感」というか、オーラと呼ばれる様な雰囲気を隠しきる事が出来ていない。たった数100m歩くだけで何人かのすれ違う女性達に振り向かれた。
でも声は掛けられないので、アスタリスクを知っている訳ではないのだろう。
それでも一般人に紛れられないのだから、生まれつきのスター性というものがある。
わざと派手な格好をして人目を惹きたがる松浦とは、根本からの違いを感じた。
青を担当していたアイは、グループの中でも人気が高かった。
赤担当のコウが圧倒的人気のグループではあったが、黒担当のレンと青担当のアイの2人も人気があった。
特にアイはダンスのレベルが高かったので一目を置かれる存在だった。
色のイメージもあるのかクールな印象で、口数も多くないので
松浦と違って付け入る隙が無く、接触は諦めて居たが、その松浦よりもあっさりと会えたのは正直以外だ。
近くの駐車場までやって来ると、隅に停められた黒い車に案内された。
「初対面の奴の助手席に乗るのは嫌だろうから、後部座席に座って」
とドアを開けてくれた
そして自分は助手席に座るとこちらに体を向けて
「喫茶店で何も頼まず出て来ちゃったから、これ良かったらどうぞ」
と緑茶のペットボトルを差し出して来た。
「あ、他のが良かったら水と紅茶もあるけど…」
「あ、いえ、これで大丈夫です。ありがとうございます」
「喋りにくいと思うけど、こうやって座っていれば、誰かに見られても運転手を待ってる様に見えるから安全なんだ」
そういって薄く苦笑いする姿が、演技とは思えない。
誰かに見られる事を意識して、自分を律して気を付けられて居るのはアイドルとして正しい姿だろう。
正直松浦の時とは全く違う状況に拍子抜け感は否めないが、それでも訊かなければいけない事がある。
「お話を伺う前に、単純な疑問なのですが、何故会ってくれたんですか?」
「…大した理由はないよ。俺達の本名を調べられるくらい本気で俺たちを好きで居てくれた人に
もう明かす事のない気持ちを、ただ聞いて欲しかっただけなんだ」
「明かす事のない?」
「そうだよ。これは……もうただの愚痴だな」
そう言って自嘲すると話し始めた。
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