推しは推せる時に推せ

夏目 夏実

1話 推しは推せる時に推せ

【推しは推せる時に推せ】

アニメはアイドル、歌手などが好きな人の間で生まれたネットスラング

誰かをどれだけ好きになっても、その人がある日突然いなくなってしまう事もある。

誰かを好きで居られる今は有限であるという戒めの言葉だ。



いつまでも頭蓋骨の裏側にこびり付く様な脂っぽい臭いに嫌気が差し、1人外に出て散歩をする事にした。

嫌味かと思うほど爽やかな秋空と清く澄んだ空気に舌打ちをしながら、着慣れない黒のワンピースの裾を強く握り締めた。


今朝、私が5年間応援していたアイドルグループが、突然解散を発表した。


メンバーの1人が失踪したらしい。



ネットは大荒れで、ファン達は勿論普段彼らに興味のない層まで「えーびっくり」「まじか」など驚嘆を書き込んでいる。

どいつもこいつも同じ様な言葉をわざわざ打ち込むのを無駄と感じないのか疑問だ。

終いには解散理由を憶測で創作して空想物語を述べ始める。

♯アスタリスク解散

のタグをつけて、まるで大喜利大会のように大盛り上がりだ。


アスタリスクの事を何も知らない奴らが勝手な事を言うのは許せないけれど

そんな事に怒れない程、私の体内にある感情は全て「悲しみ」に使い切ってしまった。


解散するのは構わない。

いや構わなくはないが、その日はいつかはやってくる。永遠なんてものはない。

けれどその理由に納得が出来なかった。


私の5年間は一体何だったのだろう?

私の5年は、たった数行の「お知らせ」で全て無になってしまう程度のものだったのだろか?

そして、結成する前からずっと応援していた好きな人をこんな風に一方的に奪われるのは余りに残酷だ。

愛する気持ちも大切に思う気持ちにも、泥を塗って勝手に奪われた。



無慈悲で、残酷で、理不尽だ



そう、これは理不尽な行いだ


ならば争うために、私はどんな手段でも選んで良いはずだ。

私は懺悔しながら、スマートフォンに8桁の数字を打ち込んだ。

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