第二章 二人の時間

二人の時間 その1

 昼休み、秋人はいつものように健史、香澄、莉緒、悟の五人で昼食をとっていた。秋人以外の四人は皆弁当を持って来ている。


「はい、けん君、あ~ん」


「あ~ん」


 カップルである健史と香澄が人目もはばからずイチャイチャする。もはやこれは昼休みの恒例行事となっていた。


「よく恥ずかしげもなくバカップルみたいなことできるね」


 莉緒が冷静につっこみを入れる。


「おやおや莉緒ちゃん、そんなに私たちが羨ましいのかな? それなら秋人君にやってあげればいいじゃない!」


「なっ、そんな恥ずかしい事できるわけないじゃない!」


 莉緒が顔を真っ赤にして反論する。語調は強めだが秋人をちらちらと見ながら言っていることから、まんざらでもない様子だ。


「俺はこの通りいつもお総菜パンだから何も食べさせてもらうようなものはないよ」


 そう言って購買で買ってきた総菜パンを見せる。自分でお弁当を作るという高度な技術を持たない秋人はいつも総菜パンか学食で昼食を済ませていた。


「ねぇねぇ、それなら俺は弁当だからあ~んしてくれてもいいんだぜ!」


「悟はダメ、自分で食べて」


「なんでさ!」


 悟と莉緒の軽快なトークを横目に、秋人はじっと雪菜のことを見ていた。


 雪菜はいつも一人で昼食をとっている。彼女が使っている弁当箱は巷の女子大生なんかがよく持って来ている「そんな小さい弁当箱でお腹がたまるのか?」というサイズのものではなく、されど特大サイズのものでもない、普通のお弁当箱だ。


遠くからではよく見えないが色どり鮮やかで栄養バランスが整っているは料理を知らない秋人でも分かる。弟が作っているのかあるいは雪菜が作っているのか、いずれにせよ水川家は料理上手な家系なのだろう。


 昨日はあの後、お互いの連絡先を交換して解散した。今日は放課後学校が終わったら二人で秋人の家に集まり、記念すべき第一回家事・英語の会を行う予定だ。


 さて今日はどのように英語を教えるようか、などと考えていると健史がにやにやしながら話かけてきた。


「なぁにそんな熱い視線を水川さんに送っているのかな、秋人君」


「熱い視線何て送ってないよ、今日も一人なんだなと見ていただけ」


 莉緒が訝し気な顔をする。


「一人が好きなんじゃない? 話しかけてもいっつも塩対応だし」


 そう言われて昨日の会話を思い出す。まだ少し話しただけだが、秋人は雪菜に対して不器用で人と上手く関わることが出来ないタイプという印象を抱いていた。告白を毒舌で断ってしまうのも、恐らく角が立たない断り方が分からないだけだろう。


「……水川さんのこと、気になるの?」


 莉緒が不安そうな顔で秋人を見つめる。この子はなんというか、色々と分かりやすいタイプだった。


「全然、たまたま目に入っただけだよ」


 それを聞いた莉緒の顔がぱぁと明るくなった。あまりの豹変に周りの三人がほほえましそうに笑う。


 すると秋人のスマホにメッセージが入った。雪菜からだ。


『今日は掃除当番も何もないのですぐ向かいます』


 雪菜らしい、絵文字の一つもない簡潔な文面だった。秋人は『了解、俺も今日は何の当番もないのですぐ帰ります』と返信をすると、可愛らしいクマのスタンプでオッケーと返信が帰ってきた。


 いつもとのギャップに思わず吹き出す。そんな秋人を、莉緒は不思議そうに見ていた。

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