※彼女はあくまで友達です。〜高校で再会したクールな幼馴染が毎日ゲームしに家に来るんだけど勘弁してください〜
木門ロメ
第1部 ※再会してからが大変です……編
第1話 ※これは健全な再会です。①
それも、どちらかといえば、地味な方に属する存在としてだ。
ただ一つ、他の者と違う点があるとすればそれは、
「
「ん、いいよ」
異性の幼馴染みがいる、という点だろうか。
──
それが、彼女の名前である。
腰まで届く黒髪を首の後ろで二つに束ねた彼女は、友人らしき少女に誘われるまま、着替えへと向かおうとしており、
「はぁ……」
そんな、幼馴染みのはずの人物を前にしたトオルはただこっそり見送ると、深いため息をつくだけだった。
一見してその行動は、片想いの相手に声をかけられない思春期男子のそれだが、別に好意を抱いているというわけではない。
──
何せ、友戯とは幼稚園来の付き合いではあったが、あくまでも友人の関係でしかなかったからだ。
ではなぜ、こうして遠くから見つめているのかといえば、
──また、話しかけられなかった。
それは、単純にして明快。
文字通り、小さい頃の付き合いでしかなかったからである。
出会ったきっかけは些細なもので、当時まだ流行っていなかったゲームを唯一やっていたのが友戯だったからというものだ。
それからと言うものの、暇があれば二人してゲームをして遊んでいたのだが、
──あの頃は楽しかったな……。
ため息をつく現状を見れば察せられる通り、友戯とはとうの昔に疎遠となっていた。
そうなるまでには紆余曲折あったのだが、強いて言うならば中学で別々になってしまったのが大きいだろう。
小学校を卒業する頃にはすでに遠くなっていた距離は、通う学校が分かたれたことで致命的な亀裂となったのだ。
──しかし、だ。
奇跡とは起きるものらしい。
高校に入って早々、なんと同じクラスに彼女の名前と姿を見つけたのだ。
訳あって疎遠になってはいたが、彼女と共に遊んだ記憶が色褪せたという訳ではない。
故に、高校生にもなって心機一転、もう一度友達になろうと決意したのだが、
「はぁぁあぁぁあ〜〜〜〜…………」
こうして深淵のごときため息をつかされている通り、現実とはそう簡単にいかないらしい。
当たり前ではあるが、友戯も女子──それも、もう立派な高校生だ。
脚はすらっと長く、艷やかな黒髪もすっかり腰まで伸びている。
両目が隠れるほどだった前髪も片目が出るように留められ、スカートの丈も他の女子と同じく短い。
黒いニーソックスとの間に見える白い肌には自然と視線が吸い寄せられてしまうことだろう。
まあつまり、何が言いたいかというと、
──女子ぢゃんッッ!!
そう、友戯と再会してはや一ヶ月、一度も声をかけられないのは彼女が圧倒的に女子だったからである。
もちろん、小学校の頃から友戯が異性であることは理解していたが、言っても小学生だったのだ。
ゲームによって生まれた友情の前には性別の差なんてどうってことない。
そう思うのが普通だろう。
しかし、
──めっちゃ可愛くなってんぢゃんッッッッ!!!!
今の友戯の前ではゲーミングマジックはまるで通用しそうに無かった。
もちろん、トオルがなりたいのはあくまであの頃の関係である。
だが、異性として見てないかと言われれば、全くもってそんなことはない。
──う、うごご……。
結果、友達に戻りたいという純心と、思春期男子特有の下心。
それらがない混ぜになって生まれた、『本当は不純な心持ちなのではないか』という疑心がトオルの動きを止めさせるのだ。
それにもし、気軽にあの頃のようにゲームしようと声をかけた結果、
『私達もう高校生だよ? そういうのはちょっと……』
とか返されようものなら、もう立ち直れない自信がある。
何なら、今少し想像してみただけでも軽く脳が破壊されそうになっているくらいだ。
──仕方ない、よな……。
そんなこんなで結局、今日もまた声をかける目処は立ちそうにない。
──俺も着替えるか。
周りではすでに他の男子たちが体育着に着替え始めている。
わざわざ一人で裸を晒したくもないトオルは、自身もそそくさと服を着替えるのだった。
──だから、この時は思いもしなかった。
床に倒れる黒髪の少女と、その上に重なる自分の身体。
──この日の夜、まさかあの友戯と。
乱れた前髪で彼女の表情は窺えず、触れた身体の柔らかさと、暖かい人の温もりだけが流れ込んできて、
──二人きりの狭い部屋で。
激しくなる鼓動の音が、全てをかき消した。
──あんなことになるなんて。
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