永遠の彼女
志央生
永遠の彼女
彼女が好きだった。だから、このまま時が止まれば良いと思わずにはいられなかった。
「ただいま」
誰からの返事もない部屋に帰宅を知らせ、僕は息を吐く。一年前からこの家は静かになった。それより以前は帰ってくれば彼女が「おかえり」を返してくれて、明るく楽しい場所だった。
けれど、今は暗く静かな場所になっている。あの頃が一番楽しかったかもしれない。そう過去に思いをはせながら僕は寝室に足を向ける。
ゆっくりと開けた扉の先に、椅子にもたれかかる女性がいた。僕はそばに駆け寄り、膝をついて彼女の手を握る。温かみはなく、脈もない。それでも、その手は僕が好きな彼女の手には違いない。「ただいま、遅くなってゴメンよ」
返事はないが、それでも言葉を続ける。今日は何があったとか、仕事の話や同僚知人の話など延々とひとりで語った。
「そうだ、今日は特別な日だからね。君の好きな服を着せてあげるよ」
クローゼットを開けて、彼女が買っていた服の中からいくつかを見繕う。中でも彼女が気に入っていた服があった。
「これ、君が好きだって言っていたよね」
僕は彼女の着ている服に手をかけて、剥いでいく。傷が付かないように丁寧に。
少しずつ露わになっていく肌は一年前が経っても変わりなく綺麗で、老いることはない。目を閉じたままの顔も美しく、あのときのままだ。
「さぁ、着替えも終わったし君の誕生会をやろう」
僕は彼女をリビングの椅子に座らせる。空っぽのグラスに赤ワインを注ぎ、ホールのケーキをテーブルの中央に置く。
「二度目の××歳の誕生日だ」
僕はろうそくに火を灯しながら、思い出す。彼女に聞いた誕生日プレゼントは若さだと笑っていたのを。その後にこれ以上は年を取りたくないなぁ、と言っていたのを忘れなかった。彼氏として、彼女が望むプレゼントをしたくて考えに考えた。
そうして、好きだった彼女のまま時を止めた。
永遠の彼女 志央生 @n-shion
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