こうくんはアナベルの花言葉知ってる?」

「はい、ネットで調べました」

 りりぃは「じゃ、その意味わかってるんだね」と言って俺を見上げる。

「はい、一応は……」

「アナベルって、小さな花が幾つも重なってるよね。それが純粋なイメージと重なってるから純粋な愛とか、一途な気持ちっていう花言葉があるみたい。私の豆知識、当たってたかな?」

「それ当たってますね。俺がググッた時は、ひたむきな愛とか辛抱強い愛情とかでした」

「どれも同じ意味合いだね!」


 りりぃ、楽しそうにしてる。手のひらを広げ、俺があげた蜂蜜のど飴の包みを見ていた。


「私、二十一歳です」

 俺と三つ違いか、と思った。でもだからと言って特別何も思わない。

 りりぃが、りりぃであることに変わりはない。

 今、目の前にいる彼女を好きになったんだから。

「でも好きな人とか……付き合ってる人、いますよね?」

「もしかして昨日の夕方、駅で見られてたのかな?」

「はい」

「その人は私の兄です」

「え、お兄さん……」

 気になっていた男性の存在が、りりぃの兄であった。俺の勘違い。恥ずかしさで顔が熱くなる。

「私の兄、駅近くで一人暮らししててね。たまには夜ご飯でも作りに行くからって約束してたの」

「……そう、でしたか」と気の抜けた返事をする俺。 

「あの日、煌くんに気づいてたよ。兄には先に帰ってもらって、何か元気なさそうだったから追いかけたんです」

  

(俺に気づいてたんだ)


「私も君のこと、本当はずっと気になってたの」

「え──……?」

 驚いた。

 そんな素振り、正直少しも思い当たらなかったから。

「煌くんとの年齢差が、やっぱり気持ち抑えなきゃってブレーキかけてたの。驚いたでしょ?」

 確かに驚いているので、ひとまず頷く。

「でも、けっこー嬉しいです」

 栗色の胸元まであるストレートな髪の、りりぃ。彼女は指先でその毛先を挟む。


「煌くんの友達は何て名前なの?」

 伊織いおりのことかと思い「伊織、田島伊織です」と答えた。

「伊織くんね。その彼と煌くん。いつも「おはようございます」って返してくれたでしょ。私、すごく嬉しくて。毎日煌くん達が通るのを楽しみにしてたんだと思う」

「俺も──俺だって、りりさんが挨拶してくれるから嬉しかったです」

「だからね、毎日ハッピーな気分で仕事に打ち込めてた。煌くんが花屋を通らない日はどうしたんだろうって、勝手に心配したりして」

 りりぃは飴の包みを握りしめたまま、口元に手をあてる。


「こちらこそ、年上の私と友達になんて、なってもらえるのかな……?」

 不安そうにしている彼女は「それにね」と続ける。

「お互い好きって思ってるなら尚更。友達からでも曖昧な気持ちでこの花を受け取れないよ。このアナベルを本気で受け取ってもいいの?」


 りりぃの、りりぃなりの、覚悟だ。






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