九
「
「はい、ネットで調べました」
りりぃは「じゃ、その意味わかってるんだね」と言って俺を見上げる。
「はい、一応は……」
「アナベルって、小さな花が幾つも重なってるよね。それが純粋なイメージと重なってるから純粋な愛とか、一途な気持ちっていう花言葉があるみたい。私の豆知識、当たってたかな?」
「それ当たってますね。俺がググッた時は、ひたむきな愛とか辛抱強い愛情とかでした」
「どれも同じ意味合いだね!」
りりぃ、楽しそうにしてる。手のひらを広げ、俺があげた蜂蜜のど飴の包みを見ていた。
「私、二十一歳です」
俺と三つ違いか、と思った。でもだからと言って特別何も思わない。
りりぃが、りりぃであることに変わりはない。
今、目の前にいる彼女を好きになったんだから。
「でも好きな人とか……付き合ってる人、いますよね?」
「もしかして昨日の夕方、駅で見られてたのかな?」
「はい」
「その人は私の兄です」
「え、お兄さん……」
気になっていた男性の存在が、りりぃの兄であった。俺の勘違い。恥ずかしさで顔が熱くなる。
「私の兄、駅近くで一人暮らししててね。たまには夜ご飯でも作りに行くからって約束してたの」
「……そう、でしたか」と気の抜けた返事をする俺。
「あの日、煌くんに気づいてたよ。兄には先に帰ってもらって、何か元気なさそうだったから追いかけたんです」
(俺に気づいてたんだ)
「私も君のこと、本当はずっと気になってたの」
「え──……?」
驚いた。
そんな素振り、正直少しも思い当たらなかったから。
「煌くんとの年齢差が、やっぱり気持ち抑えなきゃってブレーキかけてたの。驚いたでしょ?」
確かに驚いているので、ひとまず頷く。
「でも、けっこー嬉しいです」
栗色の胸元まであるストレートな髪の、りりぃ。彼女は指先でその毛先を挟む。
「煌くんの友達は何て名前なの?」
「伊織くんね。その彼と煌くん。いつも「おはようございます」って返してくれたでしょ。私、すごく嬉しくて。毎日煌くん達が通るのを楽しみにしてたんだと思う」
「俺も──俺だって、りりさんが挨拶してくれるから嬉しかったです」
「だからね、毎日ハッピーな気分で仕事に打ち込めてた。煌くんが花屋を通らない日はどうしたんだろうって、勝手に心配したりして」
りりぃは飴の包みを握りしめたまま、口元に手をあてる。
「こちらこそ、年上の私と友達になんて、なってもらえるのかな……?」
不安そうにしている彼女は「それにね」と続ける。
「お互い好きって思ってるなら尚更。友達からでも曖昧な気持ちでこの花を受け取れないよ。このアナベルを本気で受け取ってもいいの?」
りりぃの、りりぃなりの、覚悟だ。
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