32

光度を増した光と共に、僕の体が、徐々に霧散し始める。


ー駄目だ…!


「菖蒲!」


無駄と分かっていながらも、彼女の名前を叫んだ。


「…元気でね。君の翼が、大きく羽ばたくことを、祈ってる」


菖蒲は、笑っている。


あの時も、今も。


違うのは、彼女の頬を伝う、涙腺の輝きだけだ。


「待ってる…。君が来るまで、待ってるから!だから、学校で…」


僕の声は、最後まで届く事なく、大きな光と共に途切れる。


「……」


もうそこに、菖蒲の姿はなかった。


目の前では、あの大きな桜の木が、いつとも変わらぬ姿で、佇んでいた。


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