5

「…帰ろう」


地面に投げ捨てた鞄に、手を掛ける。


「あぁ…、ほんと、最悪」


中途半端に開いていた鞄の口から、勢い良く中身が溢れ出た。


今の気持ちも相俟って、ぶつけようのないやるせなさが込み上げる。


「ふぅ…」


深呼吸する事で心を宥めながら、散らばった中身を、一つずつかき集める。


三年間書き溜めたノートや、黄ばんでよれよれの教科書、卒業式の前日、クラスで書きあった寄せ書きなどを、鞄に詰めていく。


寄せ書きの隅には、丁度一人分のスペースが、ぽっかりと空いていた。


「…?何だろ、これ」


散らばった中身を鞄に戻していた所で、見覚えのない物が視界に入り、手を止める。


それは、淡い水色の封筒だった。


刺繍などが全くない、無地の封筒からは、どこか高貴な雰囲気すら感じられる。



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