0062 対【樹木使い】戦~入江の戦い(3)
【エイリアン使い】オーマが眷属たるエイリアン達の指揮を全て
最果ての島の海洞に繋がる、地下空洞の1室――将来的な『海軍基地』の候補地であった場所――から飛び出した彼らは、先行していたシータ率いる『潜水班』と合流。新たに『海泳班』と改組され、5体1組の計10分隊に散開。
"名付き"たるベータ、イプシロン、ゼータ、イータが中心となった「夜襲火攻め」の騒乱に乗じて、最果て島の沿岸域に急行することとなる。
元々、『9氏族陥落』作戦時より、将来的な
そしてその中でも最重要にして最優先の事項が、
最果て島の近海には、多様な魚群やその他の海中生物が棲息しており、それらがオーマに新たな『因子』の獲得源となったのは、こうした『潜水班』による果敢な初期調査の功績による。
そしてこの中で、中型から大型の海棲生物がほとんど見つからなかったことや、沿岸から沖合に向けて――数キロ単位の広大な"大陸棚"を先に行こうとすると、まるで警告するような"海鳴り"が響くこと、さらにダメ押しで最果て島が複数のやや
これらの情報は、"海鳴り"は明らかに
中型から大型の海棲生物が見かけられなかったことについても、
流石に、詳細な海底の地形を把握するためには、たとえばオーマの元の世界の技術で言うならば
オーマにより、【樹木使い】リッケルはただ単に"大陸"と最果て島を「
実際には「水生植物」ではなく、【樹木使い】の眷属のうち、他の眷属を強化する力を持った『全ての種子達の母たる梢』の能力により【海水耐性】を付与された植物群であったが――大勢としての読みは正しかった。
最果て島の海岸に新たに出現した4つの上陸拠点とは別に、【樹木使い】側の"本命"は海底に存在していたのである。
その数は7つあり、いずれも『
テルミト伯が
特に、予定よりも『樹身兵団』で"転生"が成功した者が少なかったことがネックではあったが、【樹木使い】リッケルの専権的な能力であった【根枝一体】の
【樹木使い】側は、地上部での壮絶な
――そして、予定よりもかなり早い段階で「海中の眷属」を擁することを
シータが数度の決死行によって調べていた海流と海域情報に基づき、『海泳班』10分隊が最果て島の沿岸部を巡り、
彼らが
だが、次の3拠点を見つけ出す頃には――海中戦力の出陣を予期し備えていたケッセレイの指揮下、【海水耐性】を付与された海遊生物型の
そして、多少遊泳能力を増したとはいえ――
本質が「植物体」であり厳密的な意味での呼吸器官が存在しない偽獣達と異なり、エイリアンはたとえ水棲型に進化しようとも、環境適応が未熟な
そしてその弱点を看破され、なんとかこの3つの【根ノ城】を崩壊に追い込むことができた頃には、魚型偽獣達による"溺死作戦"によって戦力は半壊。
さらに、これを有効打と見たケッセレイの指示により、
残る2拠点を、生き残った戦力を再結集した『海泳班』がかろうじて発見した頃には、既に
さらに、地上での「火攻め」に関しても、被害は出たものの【樹木使い】3従徒に加えリッケルを交えた情報共有と討議検討により、対抗策の展開が急速に進む。
海中で
そしてその故に、リッケルを含めて3従徒も全員が、オーマの逆転策である「海中拠点潰し」が失敗したことを満足気にお互いに確認し合う。
この上は、未だその姿を見せていない、対【樹木使い】の【相性戦】では間違いなく"最強"の存在である「火竜」の
そのように、誰もが考えていた。
だからこそ、彼らは見落としてしまった。
"名付き"と呼ばれる、種族としての
***
息継ぎのために必ず水面から顔を出さねばならない、という
それに反応して凶乱し、最果て島中をベータと共に【虚空渡り】によってあちこちに転移して暴れまわるイオータの悲嘆と狂える赫怒が流れ込んでくる。
絶対的な造物主たるオーマに仕え、そのために"役割"を成して果てることこそ
彼が、そこまで耐えることができた理由。
イオータのような狂乱の個性を芽生えさせなかった理由は――ひとえに『連星』たることを造物主より望まれた、他の"名付き"達よりも強い絆で結ばれた、ゼータとイータがいたからに他ならない。
イータもまた、その身が凍えかねないほど限界までの高度に飛び上がり、海面を監視していたのである。
そしてゼータもまた、
【エイリアン使い】オーマが、そこまで見通し読み通していたかどうかは、"名付き"達にも定かではない。
オーマは、純粋に"名付き"の能力の高さと「エイリアン」としての強靭なまでの絶対的忠誠心を信じて、この戦いにおける
だが、たとえ互いに"連携"すべき距離が離れ、陸海空とそれぞれが活躍する役割の環境すら変わろうとも、それでも彼らは『連星の絆』によって結ばれた3体であったのだ。
――故に、シータは
――造物主オーマからは、単に
――そこには、シータが失われるかもしれないということへの覚悟すらあった。
――だが同時に、それがオーマの心に非常な痛みを与える結果にもなるだろう、と『連星』の3体は理解していた。
――だからこそ、ゼータもイータも、オーマに命じられるまでもなく『連星』の名に恥じぬ"役割"を自ら果たしたのである。
シータが
***
《馬鹿な……どうして、今になって
最果て島地上部森林を舞台としたせめぎ合い。
「火攻め」に「転移個体」に果ては「
唯一、乾坤一擲として懸念された「海中戦」での【根ノ森】構築の阻止についても、その企みをケッセレイが阻止したことで相手は打つ手を失ったことも想定通り。
……やや自暴自棄になったかと思われる、多数の"上位種"を含んだ大々的な攻撃が『北の入江』に対して敢行されたことが知らされたのが、つい四半刻も前であるか。
これまでの戦いの中から積算された「新人」の能力から見て、決戦ではないが、しかしこれまでで最大の戦力の投入であり、防衛戦を食い破って
しかし、戦況を確認して失笑したリッケルを含め、彼らはこの襲撃を「新人」の窮余の悪手だと判断していた。この戦力を、昨日『生まれ落ちる果樹園』が構築されたばかりの段階で仕掛けてきていたのであれば、こちら側の"迷宮経済"の構築も大幅に遅らされていたかもしれない。海中で【根ノ城】を構築するのに投じた魔素と命素を『生まれ落ちる果樹園』の再建に投じねばならず、本命を失うどころか最も貴重な"時間"をも失いかねなかった。
だが、詮無きことである。
故に、このタイミングでのこの襲撃は「悪手」なのである。
"豪腕"を警戒すべき"上位種"達が、投げつける岩も枯れたか、朽木や倒木まで手当たり次第に投げ込んできているが――【樹木使い】にとってそれは資源の供給でしかないことすらわからぬほど、窮したか。
ならば、つつがなくこれを撃退し、与えられた多少の損害も見る間に回復させる様を見せつけて追い詰めれば――いよいよ「火竜」という最後の切り札を切るしかない。こちらが、それを警戒して対抗する策を備えているとまで見抜いたのは見事であったが、結局彼はその戦略からは完全には抜け出せなかった。
むしろ、最終局面は加速していると見てよい。
海中で守り抜いた2箇所の【根ノ城】が、地下の空洞を"掘り当てた"という報告もまたすでにリッケルと3従徒に共有されていた。
いよいよ、この襲撃を撃退すれば、全拠点から地下洞窟の迷宮に向けて進軍するための最後の戦力拡張の時間が訪れる。そしてその力で圧殺するというプレッシャーを与えていく。
巧妙に隠されたものも含めて、島中に網目のように張り巡らされた多数の「入り口」の場所も、既にその大半を偽獣達の活動によって【樹木使い】側は発見済であったのだ。
――そんな矢先の
《あり得ない。仮に1体、あの遊泳型の魔獣を派遣していたとして――あの程度の
《【鉄使い】に偽情報を掴まされたのか?》
《いや、しかし私達は現にこうして見過ごされて上陸できたはず――》
《諸君。「新人君」の魔法の正体がわかったよ。なんて奴だ、彼は"竜の怒り"もあの怖い怖い"粛清者"の存在も知らないようだね? おかしいね、界巫様の「共有知識」を少しなら、彼も読むことができるはずなのに……いや、参った》
『臨時会議室』に、珍しくも本当に困ったという表情で現れたリッケル。
そのすぐ後ろには
そこにところどころ焼け焦げて鱗が剥がれながらも生々しく断面が蠢き、潰れかけ燻されたような蒸気を上げながらも再生
《ふ、副伯閣下、なんというものを! 危険です、すぐに捨てて来てください……!》
《あっはっはっは、ケッセレイ君! 僕ぁ捨て猫を拾ってきたお使いの子供かい? あっはっは、そんなことを言われたのは何十年ぶりだか、あぁ愉快だ……あぁ、うん。今からこいつを海の反対側まで持っていけるっていうんなら、是非そうしてくれたまえよ、君》
リッケルが
「新人君」を屈服させ、返す刀で"大陸"に戦力を一気に転移させて、怨敵であり宿敵であったテルミト伯の喉元に刃を突きつける――その瞬間を一足先に夢見ようと、海岸に目をやっていたのである。
……その掌中に、暴いた墓から手に入れたリーデロットの遺骨を大事そうに握りながら。
そんなリッケルの眼前で、【闇世】の紅き大海の北の沖合で――ばしゃりと水面が揺れたかと思うや、
そして
――『連星』の"名付き"3兄弟が発見したもの。
それは、幾週も前に、
そしてその竜首は――
***
≪きゅぴぃぃえええあああ! 生首さん、お化け屋敷さん、おんねんさん! 怖いさん! おはらいさんが必要だきゅぴぃぃ!≫
≪やったぁ! にんにくさんに、お酒さんに、お塩さん。おつまみさんだぁ!≫
≪あはは、酔っぱらいさんになって追っ払うてこと? あははは≫
悲喜こもごも、てんやわんやの馬鹿騒ぎを始めた
シータを失う可能性も覚悟した"博打"であり、失敗していれば、それこそ本当に雌雄を決するための出たとこ勝負の決戦に挑まなければならなかったが――最高の展開だった。
まさか、本当に
しかも、その生首がまさか
≪ソルファイドが
≪……確かに、奴の"生えかけ"の首は自分勝手に行動していたように見えた。それが他の首に「教育」されたわけではないとしたら――主殿の仮説は、その通り、今思い返せば正しかったのかもしれない≫
≪自分の首を自分で噛み切る自爆戦法。不気味なほど同期した喋り。そして1個の生き物としての連携――
≪多すぎる頭同士が――
≪そうだ。まぁ、別に俺としては死んだ首でも良かったんだがな≫
正直、
盛大に殴り込み、破壊の限りを尽くして、辺りに大量の
ル・ベリの報告でも存在の可能性が示唆されていた、虚獣の更なる"上位種"のこともあるが――自身の"分身"が
そして俺としては、本当に
シータに挑発をさせるか、多頭竜蛇の"興味を引くもの"を見つけて、その顔を水面から出させることさえできればそれだけでよかった。
それは海戦の都合からいっても、『木造船団』の形式になるだろうと考えていた。
――怒り狂う、海鳴りの咆哮を輪唱させる、単なる
≪あぁ、可笑しい。今俺はとっても笑いたい気分だ。
≪御方様の叡智に身が竦む思いです≫
≪悪辣なことだな。主殿ならば、【人体使い】とも渡り合うだろうな≫
≪【火】とはこうやって使うんだ。はは、ははは≫
まだ、緊張を完全に解くわけにはいかない。
だが――俺がわざと提供してやった
シータを失うところであった。いや、それ以外にも、そもそもこの
まだ、安堵するにはほど遠い。まだまだ、ほど遠い。
戦力ではすでにリッケルは十分に、俺の迷宮の戦力を上回り、駆逐しかねない軍量を確保してしまっていた。
――だが、最大の博打ポイントは乗り越えたのだ。
果たして、数十分後。
『木造船団』が、その身を合体させ合流させ、
俺が"提供"した材木達は、単に「燃酸」を染み込ませただけでない。
その中にさらに【火】の『属性結晶』を仕込んでおり――射程範囲まで飛ばしていた
その様子を目の当たりにして、さらに慌てたのであろう。
『生まれ落ちる果樹園』から新たな『木造船団』が生み出されようとするが、もはや
そしてそれがわからぬリッケルではないだろう。俺がそれを見て快哉を叫んでいることもわかっているだろう。ならば、次の一手は――。
≪きゅ、きゅぴぃぃいい! 地下洞窟さんに、大量の"根"さんが侵入さんしてきてるきゅぴ!≫
≪た、大変だよ、
≪あぁ、騒ぐな。ようやくだ、ようやく
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