第二話 対照的なふたり

 ポーリシアの生活には様々な変化が待っていた。エルヴィンと婚約破棄したこと、男爵令嬢トレイティに嫌がらせをしていた糾弾されたこと……それらの噂により彼女を避ける人が出始めていた。家では婚約破棄を受け入れられない実の父親が口を聞いてくれなくなっていた。


 しかし、ポーリシアの表情は明るかった。なぜならやっとエルヴィンに解放されたからだ。


(やっと……、やっとエルヴィンの呪縛から解放されたんだ! 正直お父様が口を聞いてくださらないのはキツイ。でもお父様が落ち着いた頃にエルヴィンの秘密を打ち明ければきっと許してくださるはず。学園での噂は別に放っておいてもいいでしょう。またすぐ次の噂が出てきてみんな感心がそっちに向くわ)


 ポーリシアには憧れている男性がいた。幼馴染であり、ポーリシアにとってのお兄ちゃん的存在の少し歳上の男性ブライアン。ポーリシアは好きな人を想いながらエルヴィンの趣味に付き合うことが苦痛で仕方がなかった。


(迷惑をかけてはいかないから、しばらくはお兄ちゃんに会いに行くのはやめておこう。あぁ、でもすぐにでも会いたい。会って婚約者はもういないんだと伝えたい。お兄ちゃんはなんて言うかな? わたしの婚約者に立候補して……なんて都合が良すぎるわね)



*****



 婚約破棄されて表情が明るくなったポーリシアと対照的に、エルヴィンと新たに婚約した男爵令嬢トレイティの表情は日に日に暗くなっていた。


 そんなトレイティが一人で憂鬱そうに歩いているのを見かけて、ポーリシアは駆け寄った。そして笑顔で声をかけた。


「お久しぶり、トレイティさん。エルヴィン様とのご婚約、おめでとうございます」


「あなた……なんの用? わたくしを笑いに来たの?」


 トレイティはポーリシアをにらみ、敵意をむき出しにしている。


「そうですよ。だってご婚約なんてお祝いしないとではないですか。ついつい笑顔になってしまいますよ」


「白々しい。エルヴィン様の趣味を知ってて言っているんですわよね?」


 トレイティは小声でそう聞いてきた。


「ええ、もちろん。あら、もうわたくし行かないと。では失礼いたします。あ、そうそう。トレイティさん、本当にありがとうございました」


 そう言ってポーリシアは笑いながら去って行った。残されたトレイティは悔しさを隠すことが出来なかった。

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