【回顧の牢獄】 上
「信じてくれ!!本当なんだ!!!」
絞首台で男の悲痛な叫びが響く。
男は殺人の罪で逮捕された死刑囚で、今まさに自分の罪の落とし前をつけさせられる所だった。
何度も訴えた内容は真実味が無いと無下にされ誰にも信じては貰えず、真実は男の生命の灯火と共に永劫に闇に消えようとしている。
逃がさない。
お前だけ逃げられるなんて、許さない。
男の口から溢れた呪詛は、処刑用の袋に覆われて誰の耳にも届かなかった。
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「ぬあ''ーー!!ここも売り切れだ!!」
『もう諦めな、此処で8軒目だよ。』
某コンビニの店内。
俺の悲痛な叫びを無慈悲に切り捨て、スマホの中で新谷先輩はため息をつく。
今、俺たちは最近学校で大流行している[プラナリアくんウエハース]を探しにコンビニやスーパーをハシゴしていた。
[プラナリアくんウエハース]は、1パックの中に一枚のウエハースとプラナリアくんカードが同封されており、レアなカードを手に入れる為に今、全国の子供たちはこぞってお小遣いをはたき、ウエハースを買っているのだ。
勿論、俺もレアカードを手に入れるべく、お母さんのお手伝いをして軍資金もといお小遣いをコツコツと貯めていたのだが……。
「盲点だった。まさか、此処まで人気だったなんて……!!」
何処の店でも在庫が空っぽ。
空箱に「プラナリアくんウエハース」の値札だけが虚しく張り付いているだけなのだ。
『店側も、まさかこんな悪趣味なキャラが人気になるとは思ってなかっただろうしねぇ。需要があるなら直ぐ生産されるだろうし、近くのコンビニで再入荷されるのを大人しく待ったらどうだい?』
「流行りはスピードが命なんだよ!!
何としてでも、今日手に入れるぞ。」
『やれやれ。』
とはいえ、新谷先輩は呆れつつも協力してくれる気はあるらしい。
スマホでナビを立ち上げ、スーパーの位置を表示してくれた。
『じゃ、此処とかどう?
そこまで距離も離れていないし、広いスーパーだから品揃えも良いと思う。』
「分かった!行ってみる!!」
現在の時刻は午後16時20分。
時間的にも次の店が最後になるだろう。俺は財布を握りしめ、メラメラと闘志を燃やす。
待ってろ、プラナリアくんウエハース……絶対手に入れてみせるからな……!!
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「あった…………あったぁ!!!!
新谷先輩!!有難う!!!!」
『はいはい、どういたしまして。』
念願のプラナリアくんウエハースの山を目にして、俺は歓喜の声を上げる。
新谷先輩が案内してくれたお店は、確かに広くて内装が綺麗な所で、他の商品の品揃えも豊富だった。
距離も近いとは言えないが家からそこまで離れてもいないというのに、何で今まで俺は知らなかったのだろうか?
「それにしても、良くこんな穴場知ってたね。今後もちょくちょく利用しようかな……。」
『あぁ、それはやめた方がいいよ。
……ここ、偶に出るらしいから。』
「何が?」
『怪異が。』
怪異、という言葉を聞いて自分の顔が引き攣っていくのを感じる。
ま、まさか……。
「新谷先輩……また騙したなっ!?」
『騙してなんていないだろ。莉玖くんがウエハースを何としてでも今日手に入れたいって言ってたから協力してあげただけじゃないか。
いやぁ、欲しいものに対する莉玖くんの熱意には感動しちゃうなぁ!!』
やられた。
そうだ、この男が[善意]で協力なんてしてくれる訳が無かったのだ。
俺に何かあったら自分にも被害が来るのに、なぜ彼は積極的に俺と怪異を引き合わせようとするのか……。
ふと上を見上げると至る所に監視カメラが回っており、客が極端に少ないのも相まって今いる場所が急に恐ろしく感じてきた。
ま、まさか本当に……!!
「ま、まぁいいや!!
ウエハースは手に入ったし、早く帰ろう!!もういい加減遅い時間だし……あれ?」
「偶に」と言う言葉が出てきたという事は、必ずしも出てくる訳では無いのだろう。
だとしたら、どんな怪異かは知らないが危険な事が起こる前にサッサと退散すれば良い。
そう思った俺は、スマホの時間を確認してピシリと固まる。
液晶が映した時間は15時30分。
前の店を出た時より早い時間になっていた。
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