@YAKIJiKA

【呪念の手記】 上

 【呪念の手記】

 その曰くは、迫り来る死の連鎖。


 『この手紙と全く同じ内容のものを7日以内に7人に回さないと、呪われて死ぬ』という内容が、チグハグな筆跡で書かれた手紙。

 地域により小さな違いはあるが、手紙を回さないと死んでしまうという部分は概ね共通しており、なんとも傍迷惑な呪いだ。今ではトンと見なくなった、古き良き時代の都市伝説の一種である。


 「……とまあ、こぅんな具合で疫病の様に被害者を増やしていく、タチのわるぅい呪いでな?

 ばぁちゃんのわけぇ頃には、こんな印の書かれた手紙が良く回されたものよ。

ま、みんな本気にしなかったからねぇ」


 結果、呪いは本物。

 木が根を広げる様に、死人が沢山出て学校がまるまる廃校になっちまったんじゃがな〜けけけっ。と紙を見せながら呑気に笑う婆ちゃんの前で、俺・有栖川 莉玖(ありすがわ りく)は黙って硬直するしかなかった。


 その紙に書かれた指を交差させた三角形の奇怪な模様は、先程苛立ち紛れに破った手紙に書かれていたものと瓜二つだったからだ。


 新谷夜弦(ニイヤ ヨヅル)


 差出人の名を、俺は知らない。



 ことの起こりは、つい数時間前まで遡る。


 思い返せばその日は散々な1日で、

テスト勉強の試験範囲は間違えるわ、

給食のクラムチャウダーのアサリに砂が入っているわ、絵の具を溢して制服が汚れるわ......。

 挙句帰り際に先生に捕まって、プリントを運ぶのを手伝わされたし…。


 そうしてクタクタになって下駄箱を開けると、なんとっ!白いシンプルな封筒の手紙が入っているではないか!!

 これは……あれでは?

 例の極少数のモテ人間しか貰えない愛の手紙では!?

 胸は高鳴り、掌には汗が滲む。

 嬉しい。今日一日の苦労は、この為の布石だったのかと思った程だ。

 が。

 上機嫌で家に帰り、自分の部屋に鍵まで掛け、ドキドキしながらペーパーナイフ片手に開封してみたら、中身は洒落っ気のカケラもない白い便箋に書かれた詐欺紛いの文章と不気味な印のみ。


 怒りに任せて破いて捨てた訳である。


 まさか祖母が知っているとは思わず。

 その後、近所にある婆ちゃん家に遊びに行った際に「こういう内容の手紙、婆ちゃんは知ってる?」と軽い気持ちで聞いただけだったのに……。

 いや、ただの偶然だ。

 大体呪いなんてある訳がない、無いはずなんだ。

 そう自分に必死に言い聞かせるが、身体の震えは治まらない。

 婆ちゃんはそんな俺の様子を訝しんでいたけど、無理矢理表情筋を動かして「大丈夫」と答えたら、それ以上は追求してこなかった。


 心労のせいか重い身体を引きずって、なんとか自宅まで歩きだしたが、いつも使っている道のはずなのに、やけに自宅までの距離が長く感じる。

 家に着くと、親に夕食は朝食べることを伝えてから布団に潜り込み、疲労感に身を任せて重い目蓋を閉じた。

 どうか自分の杞憂でありますようにと、そう願いながら。


 しかし、明くる日。

 鏡に映った自分の姿を見て、言葉を失った。

 俺の首には手のような形の痣がクッキリと、首を絞める様にあらわれていたのだ。

 痣を見た俺の頭の中に【呪い】の2文字がよぎり、絶望した。


 あの手紙の通りなら、このまま7日経ったら俺は本当に死ぬのかもしれない。


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