第4話
私の魔術は『記録した生物を自分の体に組み込む』というものだ。
記録できる生物には制限はあるけど、制限範囲内であれば何体でも記録が可能で、魔力を魔術具に流し続ける限り私の体に組み込むことができる。
そうすることで、獅子のような力を持った腕を作ったり、鼠のような素早さを持った足を作ったり、鳥のような翼を作ることもできるのです、えっへん! しかも同時に何体もの生物を組み込むことができるから、全ての長所を兼ね備えることだってできるのだ。
あ、でも注意しないといけないことは……見た目が、その……大変なことになっちゃうの。
考えてみて? 背中から翼を生やして、二周りぐらい大きな腕を抱えて、細くて俊敏な足をしていたら―――気持ち悪くない? 女の子としての原型ってほとんどないからね? 私ってミラほど綺麗じゃないけど、ちょっとは可愛いと思うの。指名手配される似顔絵とかが化け物の姿をしていたら傷つくんだよ。心が折れちゃうよ。
でもね、その分メリットが大きいから! ファミリーのナンバーワンを張ってないからね!
なんと聞いて! 私、記録した中に『自分の姿』があるんだよ!
まぁ、そうしないと変形したあとに自分の姿に戻れないからね。私の魔術って魔力が消えたら自動で戻るんじゃなくて、魔力で形状を完成させるから魔力切れになっても残っちゃうんだ。
だけど、自分の姿を記録できたらいつでも自分の姿に戻れる―――っていうことは、五体満足な自分になれるってことだ。
つまり、どんなに怪我を負っても魔力があれば無傷な自分になれるってこと。
ある意味不死の能力なんだ。ミラとちょっと似てるよね。もちろん、首を一瞬で切られちゃったら死んじゃうけど。
それがあるおかげで、私は今まで生き抜いてこられたんだ! 我ながら、恐ろしい魔術を作ったなって思うけど……。
そして、私の魔術具はこの修道服。本当は他のものでもよかったんだけど、私が魔術を作ろうって思った時って、修道院を抜けてからだったから大した物を持ってなかったんだよね。思い入れもあったし。
まぁ、そんな感じで私の魔術はそういうもの。
「おじちゃん! 焼き串二本ちょうだい!」
「あいよっ!」
ヘンゲル伯爵の屋敷を襲撃してから。私はアジトの近くにある街へとやって来ていた。
アジトに戻っても私は「当主はどこかで遊んで来い」ってライダに言われて仕事がないので、夕飯まで時間潰しをしているのです。
この街は活気に溢れていて、私がいる市場は歩くスペースがないって思っちゃうほど人が行き交っている。その分、賑やかな声が聞えて楽しいんだけどね。楽しそうにしてる人を見るとこっちまで楽しくなっちゃうもん! 平和が一番だね!
「ほらっ、焼き串二本お待ち!」
「うん、ありがとうね!」
私は屋台のおっちゃんから焼き串をもらう。
香ばしい匂いが鼻とお腹を擽るんだよ! 誘惑に負けちゃったのは仕方ないと思うんだよね。
「それにしてもお嬢ちゃん、随分と可愛らしいお面してるじゃねぇか?」
「えへへっ、そうでしょ!」
私は今お面を被っている。ウサギさんのお面、私の手作り!
『なるほどなぁ、こっそり教会から抜け出して来たんだろ? 神父さんに見つかる前に帰った方がいいぞ?』
「あ、あははは……うん、そうするね」
……顔を見られちゃいけないからお面をしてるだけなんだけどなぁ。ほら、一応指名手配されてるし。修道服を着てるからそういう風に見られちゃったのかな? 普通のシスターとは色が違うと思うんだけどね。
私は屋台のおっちゃんに手を振ると、往来の流れに身を任せるように市場を歩く。
ウィンドウショッピングってやつだね! ここは本当に賑わってるから、少し時間を空けたら新しいものが売ってあるから何回来ても飽きないんだよ。
それにしても―――
(なんか騎士が多い……?)
市場を歩いている人の中。甲冑を着た騎士がたくさん歩いているのを見かける。
街を歩くのは基本的に衛兵が多い。騎士は基本的に駐屯して警護するから普段は見ないはず。
それでもいるってことはもしかして私達が襲撃したことがもう広まってる? アジトも近いし、アジトの場所が割れちゃったとか?
(いや、そんな風には見えないんだよなぁ)
辺りをキョロキョロしながら騎士達は歩いている。アジトの場所がバレちゃってるんなら、そもそも街中に来なくて部隊を編成してアジトを襲いに行くはず。
見た感じ、騎士達は誰かを探しているっぽい気がした。
(よく分かんないけど、ちょっと離れた方がいいかなぁ)
焼き串を急いで頬張り、人混みを掻き分けてすぐ近くの路地裏に入る。
私のことじゃないかもしれないけど、騎士が多い場所にいると動きづらい。私も指名手配されちゃってる女の子だからね。
路地裏に入ると、一気に市場の喧噪が遠く感じた。路地裏は日の光があまり入ってこず、市場とは裏腹な静けさが広がっていた。歩き始めるけど、人の気配がまったくない。
だから私は少しだけ蒸れてしまったお面を外す。ちょっと気持ち悪かったから。
(表があれば裏がある……まぁ、そういうことだよね)
潤う場所と潤わない場所は明確だ。
それは、発展している場所には必ず存在してしまう因果なものなんだって私は思ってる。
何せ領主も全てに手を広げられるわけでもないし、国も同じことが言えるからね。
「……ん?」
そんなことを思っていると、ふと足が止まった。
というのも、通り過ぎようとした建物と建物の間───その小さな路地裏に、小さな人影を見つけてしまったからだ。
蹲り、膝を抱えている。羽織っている茶色い大きなローブはボロボロで、遠目からでも分かるぐらい汚れていた。体型からして女の子だと思う。
フードを深く被っているから顔で判断することができないけど。
こんなところで何をしてるんだろう? 見たところ、ここはスラム街じゃなさそうだし、ボロボロな服を着ている人がいるような場所じゃないはず。そもそも、どうしてそんな身なりをしていて一人なのか疑問に思っちゃう。
それに、いくら静かで誰も来ないといってもこんなところに女の子一人は危ないよね。私みたいな悪党に見つかったらそれこそ何されちゃうか分からないもん。
私は立ち止まった足を動かし、真っ直ぐではなく女の子のいる裏路地の方へと向かった。
そして女の子に近づくと、しゃがんでそのまま声をかける。
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