第67話閑話 藤の中納言side(右大臣の長男)


四番目の妹、四の君が求婚された時は驚いたものだ。求婚と言っても四の君は既に既婚者。それを知っての求婚というのだから一体どんな相手なのかと興味心身だった。


興味など持つべきではなかった。


求婚者は今上帝の第二皇子、光の君というではないか。


「本当なんですか、父上?二の宮が四の君に求婚しているというのは?」


「ああ、信じられないと思うが二の宮は四の君に惚れ込んでいる」


「四の君の美貌にですか?」


「気性も含めて好みだと仰っていた」


「四の君は人前で猫が被れたのか……」


「四の君がそんな面倒な事をすると思うか?」


「なら……ありのままの四の君を御覧になっていると……その上で求婚していると……」


「そうだ」


父上から更に詳しく聞かされた。

なんでも二の宮は長姉である弘徽殿の女御が『初恋の君』だというではないか!


これは初恋を擦らした結果では?


今は実母のように慕っていると聞くが、四の君にしたら面白くないだろう。「自分は長姉に代わりに娶られるのか?」と激昂しそうだ。

いや、その前に……。


「……その……四の君の趣味呪詛については?」


最大の難関はコレだろう。


「二の宮は全て承知している」


嘘だろ、おい。


「奇特な宮様ですね」


「出自がアレだからな。元服と同時に臣下に降るだろうが、本人の才覚で出世はするはずだ。文句のつけようがない婿殿になるだろうな。四の君の行動に対しても、恐れる事も引くことも無い。気骨ある若君だ」


「ですが、四に君には既に左大臣家の嫡男と結婚していますよ?」


「二の宮は再婚でも気にしないと言っている。浮気男に四の君は勿体ないともな」


なるほど。

父上は二の宮と四の君の結婚に乗り気なのか。

まあ、左大臣家の嫡男は一向に屋敷に寄り付かないからな。無理もない。四の君は定期的に自分の夫に向けて呪詛を行っている。いつ露見するかとコチラとしてはハラハラするばかりだ。未だ大事に至っていないが「もしも」という事もある。四の君が憎さ全開で夫殺しになる前に、気骨のある二の宮に託した方が傷も浅くて済みそうだ。何よりも、四の君の趣味呪詛を知ってなお求婚してくる男は国中探しても二の宮だけだろう。


左大臣家の嫡男を失うのは惜しいが、背に腹は代えられぬ!


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